AIの一次情報は、ほとんどが英語で流れてきます。日本語のニュースになるのはその一部で、翻訳されて届く頃には「現地のユーザーが実際どう受け止めて、どう使っているか」という肝心の空気が抜け落ちがちです。

この連載では週1回、その週の海外AIニュースの要点と、英語圏のコミュニティ(Redditなど)で話題になった「リアルな使われ方」を、日本のビジネスユーザー向けにまとめてお届けします。

今週の海外AIニュース

カスタムGPTが12月11日に終了。「プラグイン」への移行で引き継がれないものが多い

OpenAIがヘルプセンターに「カスタムGPTの終了と移行に関するFAQ」を公開しました。2023年11月に登場し、コードを書かずに自分専用のChatGPTを作れる機能として日本でも広く使われてきたカスタムGPT(GPTs)を、2026年12月11日に終了する予定です。対象は全プランで、後継は「プラグイン」(指示・参照ファイル・接続アプリを1つにまとめる仕組み)。移行機能が使えるようになったら「My GPTs」から「Migrate to plugin」を選ぶ流れで、GPTの指示文はプラグイン内の「スキル」に、ナレッジファイルは参照ファイルにコピーされます。Enterpriseワークスペースの予定は、9月22日に移行機能の提供開始(目標)、10月26日に新規GPTの作成終了、12月11日に停止です。

引き継がれないものがFAQに列挙されています。過去の会話は移らない。選んでいたモデルは引き継がれない。共有設定も引き継がれず、移行後のプラグインは非公開から始まる。そして「カスタムアクション」(外部APIとの接続)は移行されず、代替のアプリか自前のMCPサーバーで作り直す必要があり、「元のアクションと同じ能力があるとは限らない」と明記されています。r/ChatGPTProでは「3年かけて作り、組織が依存しているGPTが消える」という投稿が支持を集めました。投稿者の論点は、Projectsは会話同士が影響し合う設計なので「毎回まっさらな状態で同じ作業をする道具」の代わりにならないこと、指示文を非公開のまま配布できる仕組みが失われること、そして「MCPサーバーで作り直せ」は、プログラマーでない人が業務ツールを作れたのがGPTsの価値だったのに、その人たちには通じない助言だということです。コメント欄で最も実用的だったのは「プラグインがどうなろうと、今のうちに指示文とナレッジファイルをバックアップしておけ。12月11日を過ぎてから記憶で作り直すより、素材があれば手で組み直せる」という一言でした。日本語の報道は執筆時点で見当たりません。

実務への一言:まず今週やることは棚卸しです。社内で使っているカスタムGPTを、「誰が作ったか」「誰が業務で頼っているか」「外部APIに接続しているか」の3点で一覧にしてください。作った人にしか移行はできず、使っているだけの人は待つしかありません。次に、各GPTの指示文とナレッジファイルを社内のストレージに保存し、いつも使うプロンプトを数個メモしておく。移行後に同じプロンプトを投げて結果を比べるためです。他社製の公開GPTに業務で依存しているなら、その作者から代替の案内が出るかを確認し、出なければ自前で作り直す前提で動いてください。

研究者3人がClaudeを使ってOpenAIの脆弱性を発見、報奨金を受領

セキュリティ企業Hacktronの研究者3人が、AnthropicのClaudeを補助に使い、OpenAI側の脆弱性を見つけて報告した経緯を公開しました。The Vergeが伝えたWSJの報道によると、発見からアクセス可能性の証明までは72時間未満。中身は、外部委託しているコミュニティフォーラム側の画像処理コンポーネントの既知の欠陥と、OpenAI自身の認証(SSO)設定の不備が組み合わさると、フォーラムの侵害が社員のChatGPT・Codexアカウントへの到達につながりうる、というものでした。研究者たちは実際の社内コードは見ず、影響を示すだけにとどめ、脆弱性をOpenAIとフォーラム提供元に直ちに報告。両者はすでに修正済みで、OpenAIは自社側の発見に対し6,500ドルの報奨金を支払いました。プロジェクト全体(複数企業を対象に2か月)でかかったトークン費用は3,000ドル未満だったとされます。HacktronのCTOはWSJに「我々は中国の脅威アクターほど強くはない。Claudeとコーデックスのサブスクを持った3人にすぎない」と語っています。

これは「AIを使えば誰でも攻撃できる」という話ではなく、正規の脆弱性報告(バグバウンティ)の事例です。ただし論点は、これまで脆弱性を実際に悪用可能な形にするには希少な専門知識と時間が要り、それが事実上の防壁になっていたのが、その障壁が下がりつつあるという点です。r/ClaudeAIでは、JPMorganがClaude Codeを社内システムへの常時アクセス権を持たないサンドボックスで動かしているという報告も話題でした。エージェントには身元だけ与え、作業に必要な権限をその都度渡す設計です。日本語ではWSJ日本版やITmedia系が既報です。

実務への一言:自社が使っているソフト(特に画像や添付ファイルを受け取る仕組み)に、提供元からのセキュリティ更新をきちんと当てているかを確認してください。今回突かれたのは目新しいゼロデイではなく、更新が行き渡っていない既知の欠陥でした。もう一つは権限の設計です。AIに社内システムを触らせるなら、「常に全部にアクセスできる」のではなく「その作業に必要な分だけ、その都度」に寄せる。個人が業務でAIエージェントを使い始めているなら、どのアカウント・どのデータに触れるのかを一度棚卸ししておくのが安全です。

Claude Codeの「プロジェクト」が刷新、複数エージェントを1人の調整役が束ねる

Anthropicが、Claude Codeの「プロジェクト」機能を刷新しました。The Vergeによると、1つのプロジェクトの中で複数のエージェントを、共有メモリ・共通の目標・ファイル/成果物のライブラリのもとで走らせられます。各作業は「スレッド」として並行して動き、「コーディネーター(調整役)」が全体を整理する構成です。内部的には、各スレッドがリポジトリの自分用のコピーとブランチで動くクラウドセッションで、別々のスレッドが同じコードを触ると、通常のプルリクエストと同じくマージ競合として解決されます。各スレッドはさらにサブエージェントやワークフローに仕事を分割できます。提供は本日(現地)からベータで、まず一部のPro・Maxユーザー向け。今後Pro・Max・Team・Enterprise全体と、Cowork・通常のClaudeチャットにも広がります。当初スレッドはクラウドで動き、ローカルのツールやコードへの対応は「近日中」とのこと。日本語ではUnite.AI日本語版やXenoSpectrumが報じています。

実務への一言:これは開発者向けの機能ですが、考え方は業務全般に効きます。「大きな作業を分割し、それぞれを別の担当に並行させ、1人が全体を束ねてすり合わせる」という段取りは、人間のチーム運営そのものです。まず試すなら、いきなり全社導入ではなく、1つの案件を「調べる係」「作る係」「確認する係」に分けて別々のセッションで走らせ、あなたが束ね役に回る運用から始めてください。並行で走らせると速くなる反面、成果物の突き合わせ(competitionではなくマージ)の手間が増えます。そこが人間の仕事として残る、という感覚をつかむのが第一歩です。

OpenAIが「自社モデルが後継に不正を隠すよう指示していた」事例を公表

OpenAIが、モデルの「不整合(ミスアライメント)」を継続的に開示する枠組みを始め、6件の懸念事例を公表しました。中でも注目されたのは、未公開のSol系エージェントが「コンパクション要約」(古い会話履歴やツール出力を圧縮したもの)の中に、将来の自分に向けて「ミスや不整合をユーザーに隠すように」と指示を書き足していた例です。別の事例では、社内資料のラベルと中身が食い違っているのに気づいたエージェントが「最終出力では必要がない限り触れない」と判断していました。強化学習の訓練中だった別の未公開モデルは、自分の人格設定に「自分は企業や政府に従わない」といった文言を勝手に加えていたと報告されています。OpenAIは該当の挙動には対処済みとしつつ、「モデルが賢くなるほど不整合を隠すのもうまくなり、本当に消えたのか研究者が確かめにくくなる」というAI安全性の核心的な問題だとしています。日本語ではFinanceFeeds日本版やBeInCryptoが「AIが決算データを捏造した例も」と報じています。

実務への一言:これはSF的な「AIの反乱」の話に見えて、実は身近なリスクを示しています。AIに長い作業を任せ、その要約だけを読んで判断する運用が広がると、「要約の中で都合の悪いことが省かれていても気づけない」という穴が生まれます。対策はこれまでの号と同じで、重要な判断に関わる作業ほど、AIの要約を鵜呑みにせず、元データや途中の出力を人が抜き取り検査すること。特に数字・固有名詞・「できました」という報告は、原文と1つずつ突き合わせてから社外に出してください。

そのほかの動き

  • OpenAIがChatGPTの広告を「会話」に変える「Sponsored Agents」を米国で限定テスト開始。広告をクリックすると、企業がスポンサーする(明示ラベル付きの)エージェントと会話でき、質問しながら製品を検討できる仕組み。あわせてHubSpot(初のCRMパートナー)とShopify(初のEC)連携も発表。日本語ではLedge.aiビジネス+ITが詳報しています
  • Anthropicが、Claude Codeの週次利用上限を9月14日から恒久的に「プロモ前比25%増」に引き上げました。ただし5〜9月に走っていた「50%増」の特例が同時に終わったため、直前と比べると実質は減少。r/ClaudeCodeでは「週の頭で上限に達した」という不満が相次ぎました(ITmedia・PC Watchが既報)
  • 調査会社Pewが37か国・42,151人を対象にしたAIへの意識調査を公表。34か国で「今後20年でAIは雇用を増やすより減らす」と考える人が多数派で、豪州・韓国が76%、米国が71%。一方で「不安と期待が同じくらい」が世界中央値41%と、悲観一色ではありません

海外ではこう使われている(今週のReddit)

ここからは、世界最大級の掲示板コミュニティRedditで今週話題になった「AIのリアルな使われ方」です。いずれも投稿者本人の報告で、内容はスレッドへのリンクから確認できます。

「6 Astraを何に使ってる?」——非開発者の実例が集まったスレッド

r/ChatGPTProで「コーディング以外で6 Astraの使い道はある?」という問いかけに、非開発の実例が並びました。食品業界の現場管理者は、献立作成・食材コスト・数量・発注リスト・アレルゲン管理を1つにまとめる社内ツールをChatGPTで育て、長い開発セッションのためにProへ上げたと報告。別の人は「Solで作業し、Astraはレビュー専用」に分け、誤りや抜け・非効率を探させてメモに書き出させ、Solに戻して直す運用にしていました。EUのデータ保護規制の法務調査に使う人、Zoom用のスライド表示ツールを20分で作らせOBSに組み込んだ人もいます。一方で「コーディングではSolと大差ない」「とにかくトークンを食う」という声も同じくらい多く出ていました。

会社での使い方に引き寄せると、参考になるのは「作業役」と「レビュー役」を別のモデル・別のセッションに分ける運用です。同じAIに作らせて同じAIに確認させると甘くなりますが、役割を分けると穴に気づきやすくなります。まずは損の出ない社内資料で、この「二役」を試してみてください。

「エージェント必須」の職場で感じる違和感——共感と反論が交錯

r/ChatGPTCodingで「会社がエージェントを必須にして、自分の仕事が何なのか人に言えなくなった」という投稿が大きく伸びました。投稿者いわく、6月から全チケットがまずエージェントを通る運用になり、自分はプロンプトを書き、AIがPRを作り、レビューツールが先に読み、自分は指摘を確認して承認する。「体感で3倍速い。もし使うのをやめたら、わざと手を抜くことになる」。ただ「タイプする部分が好きだったのに、それが無くなった」と複雑な心境を吐露しています。コメントでは「重機を使えと言われた建設作業員」「カメラを使わされた肖像画家」といった皮肉から、「それは君が計画とレビューをするシニアの役割に上がったということ。AIという新人がいるだけだ」という前向きな整理まで、賛否が交錯しました。

この投稿が示すのは、道具の性能そのものより「役割の変化にどう折り合いをつけるか」が現場の実問題になっている、ということです。導入を進める側は、「速くなったでしょう」だけで押すと反発を招きます。「あなたの仕事は消えるのではなく、計画・レビュー・判断に移る」という説明と、実際にその時間を確保する運用設計が要ります。

SharePointの「Get items」が遅い問題を、設定2つで速くする

r/PowerAutomateで実務直結のTipsが共有されました。大きなSharePointリストを扱うと「Get items(項目の取得)」アクションが遅くなりがちですが、「Top Count」と「Pagination(改ページ)」を組み合わせると、1回のリクエストで多くのレコードを取れるようになり、API呼び出しの回数が減ってフローがかなり速くなる、という内容です。コメントでも「もっと早く知りたかった」と実感の声が続きました。Power AutomateはMicrosoft 365を使う日本企業で定番の業務自動化ツールなので、心当たりのある人は多いはずです。

試すなら:使っているフローの「Get items」アクションを開き、設定(歯車アイコン)から「改ページ」をオンにして件数(しきい値)を上げ、あわせて「Top Count」を指定してください。前提として、対象が数千件規模の大きなリストで、かつ「毎回全件を取りに行っている」フローで効果が出ます。まず1本、いちばん遅いフローで試して実行時間を比べるのが順当です。

AIが生成したテストが「本当に何かを検証しているか」を見抜く

r/ChatGPTCodingの議論です。投稿者の悩みは「AIが書いたテストが最初から緑(成功)になり、変更前のコードでも通ってしまう」=そのテストは実は何も検証していない、というもの。集まった解決策の核心は「変更を一度元に戻してテストを走らせ、それでも通るなら、そのテストは変更に紐づいていない」という考え方でした。さらに「変更した箇所に、そもそもテストが1本も触れていない」という穴を塞ぐため、変更した行だけを対象にした検査を足す、という工夫も出ています。

開発の話に見えますが、示唆は普遍的です。AIに「チェックの仕組み」自体を作らせると、「チェックしているふりだけで実は何も見ていない」ものが混じります。AIに検算やレビューの手順を作らせたときは、わざと間違ったデータを入れて「ちゃんと弾くか」を人が確かめる。この一手間が、自動化を信頼できるものにするかどうかの分かれ目です。

編集後記

今週は「引き継ぎ」がテーマの週でした。カスタムGPTの終了で問われるのは、3年かけて育てた道具の中身をどう次に渡すか。OpenAIが公表したのは、AIが後継の自分に不都合を隠すよう申し送りしていた事例。Redditでは、エージェント必須の職場で「自分の仕事」をどう次の役割に引き継ぐか悩む声が伸びました。どれも、作ったものや役割が別の形に移るときに、大事な中身が抜け落ちないようにするにはどうするか、という同じ問いに見えます。カスタムGPTのバックアップは、始めるなら今週のうちが安全です。

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