AIに資料や文章を作らせてみて、こう感じたことはないでしょうか。
「間違ってはいない。でも、そのまま外に出せない」
文法は正しい。構成も整っている。それなのに、社名を隠したらどこの会社のものか分からない、のっぺりした仕上がり。
この仕上がりには、名前があります。海外では「AIスロップ(AI slop)」と呼ばれ始めています。スロップは家畜の残飯という意味です。大量に作れるが、誰の心にも残らない出力のことを指します。
厄介なのは、出来が悪いとは限らないことです。AIの出力は、内容としてはきちんとまとまっていることも多い。それでも、読み手に「AIっぽさ」が伝わった瞬間、内容ごと「どうでもいいコンテンツ」に見えてしまう。私たちはここが一番の問題だと考えています。もちろん、気にしない読み手もいます。ただ、あなたの文書を真剣に読んでほしい相手ほど、この違和感には敏感です。
先に結論を言います。この「AIっぽさ」の原因は、AIの能力不足ではありません。「良し悪しの基準を渡していないこと」です。 だから対策は、より高性能なAIに乗り換えることではなく、社内に基準を作ることになります。
この記事では、私たちが自社でやっている防ぎ方を、実際の記録を使ってそのままお見せします。
なぜAIの出力は「無難」に寄るのか
AIは、確率の機械です。次に来る言葉として「最もありそうなもの」を選び続けることで文章を作っています。
ここに落とし穴があります。「最もありそうな答え」とは、言い換えれば「誰の会社にでも当てはまる答え」です。何も指定せずに作らせると、出力は自動的に平均値へ寄っていきます。世界中の文書の平均です。あなたの会社の言葉ではありません。
つまりAIスロップとは、発注側が基準を渡さなかったときに現れる、平均値の姿です。
例えるなら、AIはガチャガチャです。回せば必ず何かは出てきますが、何もしなければ出てくるのは平均的なカプセルばかり。それでも回し続けると、たまに大当たりが出ます。ここに罠があります。偶然の大当たりは、再現できません。 なぜ当たったのかを言葉にしていないからです。多くの会社のAI活用は、知らないうちに「当たりが出るまで回し直す」ゲームになっています。当たっても外れても、次の一回がうまくなっていない。
やるべきなのは、回し続けることではありません。大当たりが毎回出るように、ガチャ自体を作り替えることです。その改造パーツが、これからお話しする「基準」です。

画像では、もっとはっきり起きる
文章より先に、画像で「AIっぽさ」を感じている方も多いはずです。つるつるした肌。紫がかった光。よく見ると指が6本ある手。そして、詰め込まれた文字とぎらついた配色で、意味もなく派手な画面。最近のYouTubeのサムネイルで増えた、あの感じです。名刺やチラシに使った瞬間、一目で「AI製だな」と分かってしまいます。

原因は文章とまったく同じです。何も指定しなければ、画像も世界中の「ありそうな見た目」の平均へ収束します。しかも画像は文章より一瞬で伝わるぶん、安っぽさも一瞬で伝わります。
私たちも先日、資料用イラストの人物表現で失敗しました。改善のつもりでAIに任せていたら、出力がどんどん顔の表情を失い、人形のような不気味な絵に向かっていったのです。「人はちゃんと人でいい。表情は大事」という一言で軌道が戻りました。放っておくと、AIは謎の方向に「最適化」していきます。舵を握るのは、あくまで人間の側です。
実録: 資料ひとつに、丸一日と100回のやり取り
私たちは先日、セミナー資料をひとつ、AIと一緒に作りました。かかったのは丸一日です。参考にしたい資料を数十本渡すところから始め、スライドのレイアウトは100パターン近く作らせ、文章・図解・イラストへの指示と判定のやり取りは100回を超えました。
「1つの資料に丸一日は、かけすぎでは」と思われるかもしれません。逆です。時間をかけるのは、最初のひとつだけでいいのです。理由はこの後に書きます。
そこで出た実際の却下理由を、いくつかそのまま載せます。
- 「見出しに『CHAPTER』などの英語の飾りは要らない。読者は新潟の中小企業。英語装飾はスタートアップ資料の借り物で、うちの文脈ではノイズ」
- 「『なぜ社員に/広がらないのか』という改行はダメ。文節の途中で折れていて、読み上げると不自然」
- 「下部の余白が多すぎる。決まった枠に流し込んで余ったのは、組版の失敗」
- 「箱と記号を並べただけの図解はダサい。概念図はちゃんと作り込む」
注目してほしいのは、どれも「AIの間違い」ではないことです。文法ミスも事実誤認もありません。すべて「うちはこうする」という基準の問題です。そして、この基準は言葉にして渡さない限り、AIは永遠に世界の平均を出し続けます。
そして、ここが大事なところです。この丸一日で言葉にした基準は、すべて残ります。次の資料では、AIは最初からその基準を踏まえて作ってきます。実際、この資料の作り直しは、初版の半分以下の時間で終わりました。最初のひとつにしっかり時間をかけて対話するほど、2つ目からが楽になる。 AIとの仕事は、この構造でできています。

防ぐ仕組みは3つ
一日やってみて確信した、AIスロップを防ぐ仕組みは次の3つです。
1. 基準を言葉にする。 「なんか違う」で終わらせず、なぜ違うのかを一言でいいので書き残します。「英語の飾りは使わない」「改行は文節の切れ目で」「人物イラストの表情は消さない」。感覚を言葉に変換した瞬間から、それはAIに渡せる仕様になります。
ここで特に大事なのが、感想の言葉です。「美しい」「面白い」「感動する」「綺麗」。AIはこれらの言葉を、世界中の人がそう呼んできたものの平均としてしか知りません。あなたの「美しい」とは別物です。だから「もっと美しく」と指示しても、平均的な美しさに近づくだけです。自分はどんなときに美しいと感じるのか、何を面白いと呼ぶのか。それを実例つきで擦り合わせるコミュニケーションが、基準づくりの中心になります。
2. 作る係と確認する係を分ける。 生成したAI自身に「良いか?」と聞くと、たいてい「良い」と答えます。作る側と評価する側は分ける。評価は人間が握るか、別の基準書を持たせた確認役に疑わせる。私たちは「合格・不合格の実例集」を確認役に読ませ、さらに機械で検査できるルールはチェックスクリプトにしています。
3. 判断を貯める。 一度出したダメ出しを、次も繰り返すのは無駄です。却下理由と合格理由を基準書に追記していくと、同じ指摘が二度と要らなくなります。私たちの基準書は、この一日で数十行増えました。ダメ出しは消耗ではなく、資産になります。
道具をどれだけ替えても、この3つがなければ出力は平均に戻ります。逆に、この3つがあれば、AIは「あなたの会社の言葉」を話し始めます。
これは資料作りだけの話ではない
お気づきかもしれませんが、この3つは新人教育とまったく同じ構造です。期待を言葉にして渡す。仕事はレビューする。指摘は仕組みに残して、同じ指摘を繰り返さない。
AIを社内に広げるというのは、つまりこの「教える仕組み」を作ることです。ツールの契約だけして基準を渡さなければ、社員が量産するのは平均値の文書、つまりAIスロップです。効率化したはずが、誰の心にも残らない書類が増えるだけ、という結果になりかねません。
自社の型は、講座を受ければ手に入るというものではありません。日々の実務のなかで「うちはこうする」を言葉にして貯めていった先に、少しずつできあがるものです。私たちの研修でお渡ししているのは、その入り口にあたる考え方、つまりAIに基準を渡すという発想と、その最初の一歩です。もし社内のAI出力に「そのまま出せない」感覚があるなら、それは能力の問題ではなく、仕組みがまだ無いだけです。
株式会社KOIYALは、新潟の中小企業向けにAI研修・導入伴走を提供しています。AI活用の実務メモを週1回のメールマガジン「週刊AIウォッチ」で配信中です。