中期経営計画、DXの推進計画、補助金の事業計画、BCP。会社には、数年に一度、まとまった文書として計画を作る場面があります。そのたびに、コンサルティング会社に頼んでいる会社があります。社内に書ける人がいない、前回も頼んだ、時間がない。理由はどれももっともで、出来上がる文書もきちんとしています。ただ、作る過程を共有せず、完成した文書だけを受け取る形だと、計画の作り方が社内に残りにくく、次に作るときも外部に頼りやすくなります。
2026年10月6日、大阪府河内長野市の西野修平市長が記者会見で、生成AIを使って職員が主体的に行政計画を作る脱コンサルを宣言しました。日本経済新聞が同日に報じています。2027年度以降に作り始める各種の行政計画が対象で、これまでほぼ委託で進めてきた計画づくりを、職員が担う範囲を広げていく。委託費は計画ごとに数百万円から数千万円かかっていた、と市長は述べています。
この記事は、この宣言を会社に置き換えます。読者は、計画を作るたびに外部に頼んでいる経営者と、計画づくりを任されている担当者です。当社はコンサルティングを売る会社ですが、当社の使命は、コンサルティングがいらない、自走できる会社を作ることです。だから、この記事はコンサルを頼むなという記事ではなく、頼む範囲を自社で決められる会社になるための記事です。
結論を先に書きます。
- 脱コンサルは、頼まないことではなく、作る側が自分になることです。 河内長野市の宣言で外部の専門家がなくなるわけではなく、役割が高度な助言と客観的な検証に変わります。会社でも同じで、骨子と素案を自社で書き、必要に応じて外部に専門的な助言と検証を頼む形に変えます
- 生成AIに渡せるのは作業で、最終の判断と責任は自社に残ります。 基礎調査、データの整理、骨子と素案の作成には、AIに任せられる部分があります。何を目指すか、どの案を選ぶか、誰が責任を持つかは、自社の人が決めます。ここを外に出したままだと、AIを使っても脱コンサルにはなりません
- 自社で計画を作る組織を、当社は4段で提案します。 AIの利用の決まりを作る、推進チームを置く、1本の計画で試す、外部を助言と検証の役に変える。河内長野市の経過を参考に、会社向けに組み直した順番です
河内長野市は何を宣言したか
日本経済新聞の記事の内容を、確認日2026年10月13日の時点で整理します。
- 2027年度以降に策定に着手する各種の行政計画を、職員が生成AIを使って主体的に作る
- 目的は、職員の政策形成能力の向上と、行政計画を作るノウハウの蓄積
- これまでほぼ委託で進めてきた。AIを使いこなせれば、数百万円から数千万円の委託費用を払わずに済む、と市長は述べた。コンサルティング会社も生成AIで作った成果物を納品してくる、という認識も示した
- 住民に身近な職員が作る計画のほうが精緻になる、と市長は主張した
- 前段として、2025年度に生成AIの利用ガイドラインを作って業務での利用を始め、2026年度から若手職員を中心とするプロジェクトチームを置いて利活用を進めている
- 行政向けの生成AIを提供する Polimill(東京都港区)の技術支援を受け、行政実務での活用の可能性を検証している
- これまで外部のコンサルに一括で委託することが多かった基礎調査、データの整理、計画の骨子と素案の作成について、職員が担える範囲を広げる
- 高度な助言や客観的な検証が必要な分野では、引き続き外部の専門家の知見を活用する
Polimill が2026年5月8日に公表したプレスリリースによると、同社は同年4月22日に河内長野市の職員約50名に、自治体向け生成AI QommonsAI の初級研修を現地で行っています。参加者のうち毎日使う職員は約2割で、週に1度以下か当日が初ログインの職員が約6割だった、と書かれています。市は2026年8月24日に、同社と生成AIの利活用等に係る連携協定を結んでいます。連携事項には、市の生成AI利活用推進プロジェクトチームへの技術的支援と、職員の活用能力の向上が入っています。
つまり、宣言に先立って準備があります。利用の決まりを作り、研修をして、若手のチームを置き、道具の提供元と協定を結んで技術支援を受ける。その上で、計画づくりという大きな仕事を職員に戻す、と決めた。この経過が、会社に置き換えるときの手がかりです。
会社に置き換える。コンサルに頼んでいた4つの仕事
河内長野市の記事で当社がいちばん役に立つと思ったのは、委託していた仕事を基礎調査、データの整理、骨子と素案の作成、そして高度な助言と客観的な検証に分けていることです。計画づくりを1つの塊として外に出すか自社でやるかを決めるのではなく、中身を分けてから、どこを戻すかを決めている。
会社の計画づくりも、同じように分けられます。

基礎調査。 市場の動き、競合の動き、法制度の変更、業界の統計を集める仕事です。生成AIは、公開されている情報を集めて整理する作業を速くします。ただし、出てきた情報の出どころを確かめるのは人の仕事で、AIが示した数字をそのまま計画に書くと、根拠を聞かれたときに答えられません。自社の人が担うのは、何を調べるかを決めることと、出どころの確認です。
データの整理。 自社の売上、顧客、原価、人員の数字を、計画に使える形に並べる仕事です。ここはAIに渡せる部分と渡せない部分がはっきりしています。社内のデータを外部のAIに渡してよいかは、先に決めておく必要があります。Microsoft 365 Copilot や Gemini のような法人向けの道具でも、契約のプランとデータの扱いと、接続する資料の範囲を確かめます。社内の資料を参照させるなら、誰がどのデータを見てよいかの整理が先です。自社の人が担うのは、どの数字を見るかを決めることです。
骨子と素案の作成。 計画の章立てを決め、各章に何を書くかを決め、文章にする仕事です。計画の論点と構成を決める工程なので、ここを自社でやると、ノウハウの蓄積につながります。生成AIは、章立ての候補を出し、素案を書き、別の案と比べる作業を速くします。当社が提案書と企画書のAI化を半日で試す5つの手順で書いたように、要件の抽出と作成はAIに渡し、対応付けと骨子は人が決める、という分け方がここでも使えます。自社の人が担うのは、骨子を決めることと、素案を読んで直すことです。
高度な助言と客観的な検証。 自社の案に抜けがないか、数字の置き方に無理がないか、同業や他社の事例と比べてどうか。河内長野市が外部に残すと決めた仕事で、当社も、これは外部に残してよいと考えています。自社で書いた計画を、書いていない人が読んで、質問する。この役割は、社内の人では担いにくい。外部に頼むなら、ここです。
4つに分けると、コンサルに頼んでいた仕事のうち、AIに任せられる部分があるのは最初の3つで、4つ目は人の仕事として残ることが分かります。どこまで任せられるかは、仕事を分けただけでは分かりません。小さく試して、精度と確認の手間を見てから広げます。そして、最初の3つの中にも、何を調べるか、どの数字を見るか、骨子をどうするか、という判断があり、ここは自社の人がやるしかありません。
計画を自社で作る工程を、誰が担うか
4つの仕事を、計画づくりの工程の順に並べ直し、自社の人、AI、外部の専門家の3つのレーンに置きます。

最初は、何のための計画かを自社の人が決めます。銀行に出すため、補助金のため、社員に方向を示すため。目的によって、章立ても、数字の細かさも変わります。ここをAIに聞くと、一般的な計画の章立てが返ってきて、自社の目的に合っているかは分かりません。
次に、章立てと、各章で答える問いを自社の人が決めます。AIに章立ての候補を出させてもよいですが、選ぶのは人です。問いの形にしておくと、あとでAIに素案を書かせるときの指示になります。
その上で、調査と素案をAIに渡します。章ごとに、答える問いと、使ってよい自社のデータと、出どころを書くことを指示して、素案を書かせます。この工程は、社内の担当者がAIと一緒にやります。コンサルに頼んでいたときは、ここが相手の仕事でした。自社でやると、素案を読んで直す過程で、計画の中身が担当者の頭に入ります。河内長野市が狙っている、ノウハウの蓄積が起きるのはここです。
素案ができたら、外部の専門家に助言と検証を頼みます。自社で書いた素案を読んでもらい、抜けと無理を指摘してもらい、専門の知識が要るところは助言をもらう。相手は、コンサルティング会社でも、税理士や中小企業診断士でも、同業の経営者でも構いません。頼む中心が、書くことから読むことに変わります。
最後に、決定を自社の人がします。検証で出た指摘のどれを取り入れるか、数字をどこまで強気に置くか、誰が各章の責任を持つか。ここは、最初から最後まで自社の人の仕事です。
この流れで変わるのは、コンサルの役割が、書く人から読む人に変わることです。書く人が社内にいると、計画は自社の言葉で書かれ、次に作るときは前回の骨子と素案が社内に残っています。
自社で計画を作る組織の作り方。4段
河内長野市は、宣言に先立って、利用の決まりと研修とチームと技術支援を整えています。この経過を参考に、会社向けに当社が提案する順番を、4段で書きます。市がこの4段をこの順で実行した、という話ではありません。

1段目、AIの利用の決まりを作る。 河内長野市は2025年度にガイドラインを作りました。会社でも、どのデータをAIに渡してよいか、どの道具を使うか、出力をそのまま社外に出さない、という決まりを先に作ります。まず簡潔な1枚から始め、扱う情報や既存の規程に合わせて足していきます。この決まりがないと、計画の素案を書くために自社の売上データをAIに渡してよいかで、毎回止まります。
2段目、推進チームを置く。 河内長野市は2026年度に若手職員中心のプロジェクトチームを置きました。会社では、計画を作る部署で業務に詳しい担当者と、AIの利用経験がある担当者を組ませます。計画の中身を知っている人と、道具の使い方を知っている人が同じチームにいることが条件で、年齢は条件ではありません。担当を決め、計画の進み具合に合わせて定期的に確かめます。当社が支援に入るときは、専任でなくてよいので、毎週同じ人を窓口にしてもらうようお願いしています。
3段目、1本の計画で試す。 全部の計画を一度に戻さず、1本選びます。次に作る予定があり、前回の文書が手元にあり、失敗しても取り返せる計画が向いています。前回コンサルが書いた文書を、章ごとに、答えている問いと、使っている数字と、根拠に分解してみてください。この分解で、前回の計画の作り方が見えます。当社が業務を作業名まで割ることを先にやるのと同じ理由です。分解できたら、1章を選んで素案を自社で作り、足りない情報と専門の知識を確かめます。
4段目、外部を助言と検証の役に変える。 1本の計画を自社で書けたら、次からは外部に頼む範囲を変えます。書いてもらうのではなく、読んでもらい、専門の知識が要るところで助言をもらう。契約の形も、作成の委託から、助言と検証の契約に変わります。河内長野市が、高度な助言と客観的な検証は引き続き外部に頼む、と言っている役割と同じです。
4段のうち、1段目と2段目は、計画づくりに限らず、AIを業務に入れるときの土台です。3段目で初めて、計画づくりという具体の仕事を戻します。土台を飛ばして3段目から始めると、データの利用や素案の確認で支障が出るおそれがあります。
うまくいかない脱コンサル、続く脱コンサル
脱コンサルという言葉には、コンサルに払う費用を減らす、という響きがあります。委託費は減らせる可能性がありますが、それだけを目的にすると、うまくいかない形になります。社内の工数、AIの利用料、研修、検証の費用を含めた総費用で比べる必要もあります。

うまくいかない形は、4つの特徴があります。費用を減らすことだけが目的で、ノウハウを残す目的がない。AIに計画を全部書かせて、人が読んでいない。外部の検証がなく、社内の人だけで完結している。担当者が1人で、その人が異動すると止まる。
続く形は、その逆です。計画を作るノウハウを自社に残すことが目的で、委託費が減る可能性は結果として付いてくる。最終の判断と責任は人が持ち、AIは調査と素案を担う。外部には助言と検証を残し、書いていない人が読む工程がある。チームで担い、担当が決まっている。
河内長野市の宣言は、政策形成能力の向上とノウハウの蓄積を目的に掲げ、外部の専門家も引き続き活用する方針です。若手中心のチームも置いています。実際の運用と成果は、2027年度以降に計画が作られてから分かることで、今の時点で続く形になったとは言えません。AIにどこまで書かせるかも記事からは分かりません。当社が参考にしているのは、方針の立て方と、宣言に先立つ準備の中身です。
注意点
コンサルがいらなくなる話ではありません。 河内長野市も、高度な助言と客観的な検証は外部に残すと言っています。会社でも、自社で書いた計画を外から読んでもらう工程は、残したほうがよいと当社は考えています。変わるのは、頼む中身です。
AIが書いた計画の責任は、自社にあります。 AIが示した市場の数字、競合の動き、法制度の内容は、出どころを確かめてから使います。銀行や補助金の審査で根拠を聞かれるのは、自社の人です。素案の段階で、出どころを書かせる指示を入れてください。
社内のデータの扱いを先に決めます。 売上、顧客、人員の数字を外部のAIに渡す前に、契約のプランとデータの扱いを確かめます。Microsoft 365 Copilot や Gemini のような法人向けの道具でも、プランによってデータの扱いと参照できる資料の範囲が変わります。社内の資料を参照させるなら、誰がどの資料を見てよいかの整理が先です。
自治体と会社では、計画の読み手が違います。 自治体の計画は議会と住民が読み、会社の計画は銀行や社員や取引先が読みます。河内長野市の経過は参考になりますが、計画の中身と、助言と検証を頼む相手は、会社ごとに選んでください。
準備を飛ばさないでください。 河内長野市は、ガイドライン、研修、チーム、技術支援を経てから宣言しています。宣言だけを真似て、来月の中期経営計画からコンサルをやめる、という進め方では、素案の確認で支障が出るおそれがあります。利用の決まりと担当の体制を整えてから試してください。
KOIYALの見解
当社はコンサルティングを売っていて、使命は、コンサルティングがいらない会社を作ることです。矛盾しているように見えますが、当社のAI・DXコンサルティングは、関わり方を薄くしていく卒業設計型で組んでいます。最初は一緒に骨子を書き、次は自社で書いたものを当社が読み、最後は判断の相談だけになる。河内長野市が外部の専門家に残した、高度な助言と客観的な検証という役割は、当社が顧客との関係の最後に残したいと思っている役割と同じです。
この記事で読者の会社に持ち帰ってほしいのは、計画の骨子を自社で書き、外部には助言と検証を頼むという形です。これができると、提案書や業務の手順書にも、同じ進め方を応用できないかを検討できます。文書ごとに、必要な専門の知識と、確認する人を決めてからです。インハウス経営(AIを活用し、自社で業務を改善し、自社で仕組みをつくる経営)は、大きな仕組みを作ることから始まるのではなく、これまで外に出していた文書を1本、自社で書くところから始まると当社は考えています。
脱コンサルという言葉は強いですが、中身は、頼む範囲を自社で決められるようになることです。外部に頼む範囲を、自社の力と課題に合わせて選びやすくなる。それが、この記事で言いたい脱コンサルです。
次の行動
次に作る予定の計画を1本、思い浮かべてください。中期経営計画でも、DXの推進計画でも、補助金の事業計画でも構いません。そして、前回の文書を開いて、まず1時間を区切りに、1章を選んで、答えている問いと、使っている数字と、その根拠を書き出してみてください。書き出せた章は、次に自社で素案を作る候補です。書き出せない章が、外部に助言と検証を頼む場所の候補です。
当社のAI・DXコンサルティングは、最初の1本の計画を自社で書くところを一緒にやります。骨子は一緒に決め、素案は担当者がAIと書き、当社は読んで質問する側に回ります。2本目からは、助言と検証の役だけになることを目指します。AI・DXコンサルティングの進め方をご覧いただくか、お問い合わせからご連絡ください。
参考
- 大阪・河内長野市、生成AIで「脱コンサル」 職員主体で計画策定(日本経済新聞・2026年10月6日・確認日2026年10月13日)
- Polimill による河内長野市職員への QommonsAI 初級研修のプレスリリース(PR TIMES・2026年5月8日・確認日2026年10月13日)
- Polimill株式会社×河内長野市 生成AIの利活用等に係る連携協定(河内長野市・2026年8月24日締結・確認日2026年10月13日)
- 提案書と企画書のAI化を半日で試す5つの手順(KOIYAL・2026年10月14日)
- 業務を分解してAIに渡す。属人性が消えた数で見る自走組織(KOIYAL・2026年10月19日)
- FDEで作ったAIの7割は捨てられる、とGartner(KOIYAL・2026年10月23日)
- AI・DXコンサルティング(KOIYAL)