提案書を書く時間が、営業の時間を食っている。企画書を上司に出すたびに、構成から直される。AIに書かせてみたが、きれいな文章が出てくるだけで、相手の話が入っていない。営業と企画の担当者から、こういう話を聞きます。

この記事は、提案書と企画書をAIで作る型を、5つの手順に分けて書きます。当社の研修で行っている提案書の演習(汎用の案件資料を読み込ませ、要点を整理し、提案書の下書きを作り、わざと仕込んだ誤りを見抜く)を参考に、半日で試せる進め方の例として整理しました。読者は、法人向けの営業で提案書を書いている方、社内で企画書を書いて承認を取る方、その人たちを束ねる管理職です。道具は、Microsoft 365のCopilotでも、Google WorkspaceのGeminiでも、ChatGPTでも成り立つ範囲で書きます。画面の操作や、道具ごとの機能の違いは、この記事では扱いません。

結論を先に書きます。

  1. 提案書の作成を、要件抽出・対応付け・骨子・作成・点検の5つの手順に分けます。 要件と提案の方針を決めずに1回の依頼で書かせると、相手に合わない内容になることがあります。分けると、AIに渡す手順と、人が決める手順が見えてきます
  2. AIに渡すのは、要件抽出と、作成と、点検の一部です。対応付けと骨子は、人が決めます。 相手の要件に自社の何を当てるかと、どの順で話すかは、相手と自社の事情を把握している担当者が決めます。ここをAIに任せると、どの会社にも出せる提案書になりやすい
  3. 半日で試せます。 必要な資料を用意した演習なら、この記事の時間配分の例で3時間です。実際の案件の所要時間は、資料の量や確認の回数で変わります

AIに書かせた提案書が相手に刺さらない理由

AIに提案書を書かせると、整った文章が出てきます。見出しが揃い、メリットが3つ並び、最後にまとめがある。それなのに、相手に出すと反応が薄い。当社が理由の1つと考えているのは、提案書の中で大事な2つの判断を、AIに任せていることです。

1つ目は、相手の要件のどれに、自社の何を当てるか。相手の資料には、要件が10個書いてあるとします。自社が応えられるのは6個で、うち強いのは2個。この2個を前に出し、応えられない4個をどう扱うかを決めるのは、相手と自社の両方を知っている人の判断です。自社の対応範囲を示さずに依頼すると、10個全部に応えられるかのような文章や、根拠のない強みが混ざることがあります。

2つ目は、どの順で話すか。相手の決裁者が費用を気にしているのか、導入の手間を気にしているのか、前の業者で失敗した経緯があるのか。それで最初の1枚が変わります。相手の事情を渡さなければ、AIは一般的な順で書きます。

この2つは、5つの手順のうち、対応付けと骨子に当たります。ここを人が決めてからAIに渡すと、出てくる文章が変わります。逆に言うと、ここを決めずに依頼すると、どの会社にも出せる提案書になりやすい。

5つの手順

提案書をAIで作る5つの手順。要件抽出、対応付け、骨子、作成、点検の順に進み、対応付けと骨子は人が決める

手順1。要件抽出。相手の資料から、要件を抜き出す

相手から受け取った資料を、AIに読ませて、要件の一覧を作らせます。資料は、RFP、打ち合わせの議事録、相手のサイトの会社概要、メールのやり取り。渡す前に、社内のルールと相手との契約で、そのサービスへの入力が認められている資料かを確かめます。認められている資料のうち、要件が書かれているものを渡します。

依頼文の例を書きます。そのまま使える形にしてあります。

添付の資料から、相手が求めていることを一覧にしてください。
1行に1つ、相手の資料の言葉をそのまま使って書いてください。言い換えないでください。
各行の末尾に、資料のどこに書いてあったかを、資料名とページか段落で書いてください。
明記されている要件だけを一覧にしてください。
明記されていないが、資料の記述から考えられることがあれば、「確認が必要な仮説」として、根拠にした記述とともに別の表にしてください。

大事なのは3つです。相手の言葉をそのまま使わせること、出どころを書かせること、明記された要件と仮説を分けさせること。相手の言葉をそのまま使わせるのは、後の手順で提案書に相手の言葉を入れるためです。出どころを書かせるのは、人が確かめるためです。仮説を分けさせるのは、AIが補った部分を見分けるためです。

出てきた一覧を、人が読みます。相手の言葉で書かれていない行、出どころが無い行は、元の資料と照合します。資料に記載があれば、引用と出どころを直します。記載がなければ、未確認の事項として別に分けます。未確認の事項が多いときは、依頼文と渡した資料を見直してもう一度抽出するか、相手に確かめます。

手順2。対応付け。要件に自社の何を当てるかを決める

要件の一覧ができたら、各行に、自社の何を当てるかを人が書きます。表にします。

相手の要件(相手の言葉) 自社が当てるもの 強さ 扱い 代わりの案
導入後3か月で現場に定着させたい 定着までの伴走の進め方 強い 前に出す
既存のシステムと連携したい 連携の実績と手順 普通 書く
初期費用を抑えたい 段階的な導入の組み方 普通 書く
24時間の電話対応がほしい 無い 無い 代わりの案を出す 平日の電話と、夜間はメールで翌営業日に返答

強さは、強い・普通・無いの3段階で足ります。扱いは、前に出す・書く・代わりの案を出す・書かないの4つです。代わりの案を出す行には、案の中身を人が書きます。この表を埋めるのは人です。自社の対応範囲を知らないAIに埋めさせると、根拠のない強みが混ざることがあります。

この表が、提案書の中身を決めます。前に出す行が、提案書の最初の1枚です。無い行をどう扱うかが、提案書の信用を決めます。無いものを無いと書き、代わりの案を出す提案書は、全部できると書く提案書より、相手の信用を得やすいと当社は考えています。

手順3。骨子。どの順で話すかを決める

対応付けの表から、提案書の骨子を人が書きます。骨子は、見出しと、各見出しで言うことの1行です。10行から15行で足ります。

骨子の順番は、相手の決裁者が最初に知りたいことから始めます。費用を気にしている相手には、段階的な導入の組み方を前に。導入の手間を気にしている相手には、定着までの進め方を前に。この判断は、打ち合わせの記録を含めて相手の事情を把握している担当者がします。

骨子ができたら、AIに読ませて、批評させます。

次の提案書の骨子を読んで、相手の立場で疑問に思う点を10個挙げてください。
相手は、添付の資料の会社の決裁者です。
骨子を書き直さないでください。疑問の一覧だけを出してください。

出てきた10個のうち、当てはまるものを骨子に足します。当てはまらないものは捨てます。AIは相手を知らないので、外れた指摘が混ざります。外れた指摘を捨てる判断も、相手を知っている人の仕事です。

当社の研修の企画書の演習では、この批評に役員の人物像を与えて、1点改善する、という進め方をしています。この記事では、それを3つの人物像に広げた例を書きます。費用に厳しい役員、現場の負担に厳しい役員、前の業者で失敗した役員。人物像を変えると、出てくる疑問が変わります。3つの人物像で批評させて、共通して出る疑問を骨子に足します。

手順4。作成。骨子に沿って、本文を書かせる

骨子と対応付けの表が揃ったら、AIに本文を書かせます。ここで初めて、文章を書かせます。

添付の骨子に沿って、提案書の本文を書いてください。
見出しは骨子のとおりにし、順番を変えないでください。
各見出しの本文は、骨子の1行で言っていることだけを書いてください。骨子に無いことを足さないでください。
相手の要件に触れるときは、添付の対応付けの表にある相手の言葉をそのまま使ってください。
対応付けの表で「無い」になっている要件には、「代わりの案」の欄に書いた内容だけを書いてください。できると書かないでください。
「代わりの案」の欄が空欄の要件は、本文に「要確認」と書き、内容を補わないでください。
対応付けの表で「書かない」になっている要件には触れないでください。

骨子の順番を変えさせないこと、骨子に無いことを足させないこと、無いものをできると書かせないことの3つが要点です。この3つを頼まないと、順番が一般的な形に直されたり、メリットが足されたり、全部できるかのように書かれたりすることがあります。頼んでも起きることはあるので、次の手順で点検します。

本文ができたら、スライドにするか、文書のままにするかを決めます。相手に送って読んでもらう提案書は文書で、打ち合わせの場で説明する提案書はスライドで、というのが当社の分け方です。スライドにするときは、1枚に骨子の1行、という対応で作ります。

手順5。点検。わざと仕込んだ誤りを見抜く

本文ができたら、人が点検します。点検の観点は4つです。

  • 数値。費用、期間、件数、割合。相手の資料から引いた数値と、自社の資料から引いた数値が、元の資料と合っているか
  • 固有名詞。相手の会社名、部署名、担当者名、製品名。AIは似た名前に置き換えることがあります
  • できると書いていないか。対応付けの表で無いになっている要件を、できると書いていないか
  • 相手の言葉が残っているか。要件抽出で抜き出した相手の言葉が、言い換えられずに残っているか

当社の研修では、この点検を演習にしています。汎用の案件資料一式を読み込ませて、要点を整理し、提案書の下書きを作る。その下書きに、講師がわざと誤りを仕込みます。数値の違い、固有名詞の置き換え、できないことをできると書いた箇所。受講者は、4つの観点で下書きを読み、仕込まれた誤りを全部見つけます。見つけた後に、誤りがどの手順で入ったかを振り返ります。AIの出力を人が最終確認する、という決まりを、言葉ではなく手で覚えてもらうための演習です。

半日でどう回すか

5つの手順を、半日で通す進め方の例を書きます。当社の研修の演習を参考に、必要な資料を用意した状態での時間配分として整理したものです。

半日で5つの手順を回す進め方。要件抽出と作成と点検は個人で、対応付けと骨子はペアで、点検の答え合わせは全体で行う

最初の30分。要件抽出。個人で。 汎用の案件資料を配り、各自が要件の一覧を作ります。一覧ができたら、隣の人と見せ合います。同じ資料から、違う一覧が出てきます。相手の言葉をそのまま使った人と、言い換えた人の差が、ここで見えます。

次の60分。対応付けと骨子。ペアで。 ペアで対応付けの表を埋め、骨子を書きます。ペアにするのは、無いものを無いと書く判断の根拠を、もう1人に説明しながら決めるためです。相手役と自社役に分かれて、相手役が要件を読み上げ、自社役が当てるものを答える、という進め方にすると、無いものが無いと出てきます。骨子ができたら、役員の人物像を3つ与えて批評させ、共通する疑問を足します。

次の45分。作成。個人で。 骨子に沿って本文を書かせ、用途に合わせて文書かスライドに整えます。ここは個人です。同じ骨子から、ペアの2人が別々に作ると、依頼文の差で出てくるものが変わります。2人で見比べて、どちらの依頼文がよかったかを話します。

最後の45分。点検。個人から全体へ。 前半は、自分が作った本文を4つの観点で点検して直します。後半は、講師が誤りを仕込んだ共通の下書きを配り、各自が同じ4つの観点で点検します。全員が見つけた誤りと、見つけられなかった誤りを、全体で答え合わせします。見つけられなかった誤りが数値や固有名詞だったとき、その理由を全体で話します。

合計3時間です。休憩を入れて半日。これは演習の時間配分の例で、実際の案件の所要時間は、資料の量、相手への確認の回数、提案の規模で変わります。最初の1回は、要件抽出の一覧を元の資料と照合する作業に時間がかかります。渡す資料が足りていないことに、ここで気づくことがあるからです。

どの提案書から手をつけるか

提案書と企画書は、会社の中にいろいろな種類があります。全部に5つの手順を当てると、始める前に疲れます。どれから手をつけるかを、2つの軸で決めます。

どの提案書からAIで作るかを決める2軸の図。横軸は相手ごとに変わる部分の多さ、縦軸は月の本数

横軸は、相手ごとに変わる部分がどのくらいあるか。自社の製品説明が中心で、相手の名前と費用だけが変わる提案書は左。相手の要件ごとに中身が変わる提案書は右。縦軸は、月に何本書くか。

  • 本数が多く、相手ごとに変わる部分が多い提案書から始めます。5つの手順がそのまま効きます。まず1か月試して、作成と確認にかかった時間と、修正の回数を、始める前と比べます
  • 本数が多いが、相手ごとに変わる部分が少ない提案書は、先に雛形を作ります。対応付けと骨子は確認済みの雛形を使い回し、変わる部分だけを手順1と手順4で作ります。手順5の点検は毎回行います
  • 本数は少ないが、相手ごとに変わる部分が多い提案書は、手順2と手順3に時間をかけます。1本の作業時間が長く、失敗したときの影響が大きい提案書ほど、対応付けと骨子の精度が効きます
  • 本数が少なく、相手ごとに変わる部分も少ない提案書は、今は手をつけません。一覧に残しておき、上の3つが回ってから見直します

置く位置は、本数と相手ごとに変わる部分の多さに加えて、1本の作業時間と、失敗したときの影響で決めます。

社内の企画書は、右上か右下に来ることが多い、とは書きません。会社によって違うからです。企画書の相手は社内の決裁者で、相手の要件は、会社の方針と、決裁者が気にしていることです。手順1で読ませる資料は、RFPではなく、中期計画や、前回の会議の議事録になります。手順は同じです。

AIに渡す仕事と、人が決める仕事の線

5つの手順を使う上で、線を引いておくところがあります。

AIに渡す仕事と人が決める仕事を左右に並べた対比図。AIには要件の抜き出し・骨子の批評・本文の作成・点検の候補出し、人には要件の確かめ・対応付け・骨子の順番・点検の判断・出す判断

AIに渡す仕事。 相手の資料から要件を抜き出す。骨子を読んで疑問を挙げる。骨子に沿って本文を書く。本文の数値と固有名詞を元の資料と照らし合わせて、食い違いの候補を出す。この4つは、量が多くても手順が変わらない仕事で、AIに渡しやすい仕事です。ただし、サービスごとに一度に読ませられる資料の量や形式には制約があり、量が多いと見落としが出ることがあります。資料の量と形式に合わせて依頼文を調整し、出力を確かめます。

人が決める仕事。 抜き出した要件が相手の言葉になっているかを確かめる。要件に自社の何を当てるか、無いものをどう扱うかを決める。どの順で話すかを決める。点検の候補のどれが本当の誤りかを決める。相手に出すかどうかを決める。この5つは、相手と自社の両方の事情を把握している担当者が最終判断します。

線を引く上で、もう1つ書いておきます。見た目が整っていても、正確さは保証されません。 見出しが揃い、文章が整い、数値が入っていても、数値が元の資料と違っていることはあります。手順5の4つの観点は、見た目ではなく中身を見るための物差しです。点検は、観点の表を手元に置いて、観点ごとに元の資料と照合します。

注意点

相手の資料を、そのまま入れてよいかを先に確かめてください。 RFPや議事録には、相手の社名、担当者名、予算、社内の事情が入っています。会社として契約した道具で、入力した内容が学習に使われない設定になっていることは前提の1つで、それだけでは足りません。社内のルールで入力が認められている資料か、相手との契約で第三者に渡さないと決めていないかを、入れる前に確かめます。当社の研修では、入れてよい資料と入れない資料の線を、業種ごとの例で考える時間を置いています。答えの雛形は配りません。会社によって線が違うからです。

手順1で未確認の事項が多いときは、依頼文と資料の両方を見直してください。 要件の一覧に、相手の言葉で書かれていない行、出どころの無い行が多いときは、渡した資料に要件が書かれていないか、依頼文や資料の渡し方が合っていないかのどちらかです。元の資料と照合して、記載があれば直し、記載がなければ相手に確かめます。

対応付けの表を、AIに埋めさせないでください。 自社の対応範囲を知らないAIに埋めさせると、根拠のない強みが混ざることがあります。表を埋めるのは、手順の中で人の時間を要する仕事で、ここを省くと、5つの手順の意味がなくなります。

骨子の順番を、AIに直させないでください。 手順4の依頼文で、順番を変えないでくださいと書いているのはこのためです。相手の事情を渡さなければ、一般的な順に直されることがあります。一般的な順は、どの会社にも出せる順で、その相手に出す順ではありません。

点検の演習は、本番の提案書でやらないでください。 誤りを仕込む演習は、汎用の資料で行います。本番の提案書に誤りを仕込んで、見つけられなかった、ということが起きると取り返しがつきません。研修で手を覚えてから、本番は4つの観点の表で点検します。

この記事の手順の考え方は、道具を問いません。 CopilotでもGeminiでもChatGPTでも応用できます。ただし、一度に読ませられる資料の量と形式、資料を読ませる方法、スライドに変換する機能は、サービスごとに違い、提供の段階と画面の位置も変わります。この記事には書きません。使う道具の公式の案内で確かめ、依頼文は資料の量と形式に合わせて調整してください。

KOIYALの見解

提案書をAIで作る話は、書かせる話になりがちです。当社はそう考えていません。当社が重く見ているのは、書く時間ではなく、相手の要件に自社の何を当てるかを決める時間と、どの順で話すかを決める時間です。この2つは、AIを入れても人が担います。AIで減らせる可能性があるのは、要件を抜き出す時間と、本文を書く時間と、数値を照らし合わせる時間です。減ったかどうかは、確認と修正の時間を含めて測ります。

減った時間を、対応付けと骨子に回す。それが、当社が営業と企画の担当者に身につけてもらいたい使い方です。AIを入れて提案書の本数が増えるのではなく、1本の提案書で、相手の要件を考える時間が増える。そういう使い方です。

当社の研修は、職種ごとに題材を変えます。営業の方には提案書、企画の方には企画書、どちらも5つの手順は同じです。職種別のコースでは、汎用の案件資料で型を練習します。研修の成果物は、受講者が自分の案件で使う依頼文と、対応付けの表の雛形と、点検の4つの観点の表で、自社の案件への適用は研修の後に行います。自社の実際の案件資料で行う研修は、別にお見積りするフルカスタム研修になります。

次の行動

  1. 直近で出した提案書か企画書を1本選び、相手の資料から、手順1の依頼文で要件の一覧を作る
  2. 一覧の各行に、自社が当てるものと、強い・普通・無いを人が書く
  3. 無いと書いた行が、出した提案書の中でどう扱われていたかを見る

3つ目まで進むと、出した提案書の中で、無いものをできると書いていた箇所が見つかることがあります。見つかったら、代わりの案を1行書いてみてください。そこまでできたら、営業・企画の職種別研修で、5つの手順を汎用の案件資料で通し、点検の演習まで行います。研修の前に、対応付けの表を1本分持ってきてください。お問い合わせの本文に、月に書く提案書の本数と、相手ごとに変わる部分の多さを書いていただければ、初回の打ち合わせで、どの提案書から手をつけるかを一緒に決めます。

参考