AIの一次情報は、ほとんどが英語で流れてきます。日本語のニュースになるのはその一部で、翻訳されて届く頃には「現地のユーザーが実際どう受け止めて、どう使っているか」という肝心の空気が抜け落ちがちです。
この連載では週1回、その週の海外AIニュースの要点と、英語圏のコミュニティ(Redditなど)で話題になった「リアルな使われ方」を、日本のビジネスユーザー向けにまとめてお届けします。
今週の海外AIニュース
ChatGPTとCodexの利用枠が、12月から1つにまとまる。計測の単位もトークンに
OpenAIはヘルプ記事で、12月からPlus、Pro、Businessの各プランの利用枠をChatGPTとCodexで共通にすると案内しました。エージェント機能のWorkをChatGPT本体に組み込む動きの一環です。利用量はトークン(モデルが処理し生成する情報の単位)で測り、高度なモデルや複雑な作業ほど枠を多く使います。Instantのチャットは枠を消費しません。残りの枠とリセットの時刻は「設定」の「使用状況」で確認でき、上限に達したら、リセットを待つ、プランを上げる、クレジットを買う、のいずれかになります。OpenAIは「ほとんどの利用者は、リセットを待つ頻度が今より増えることはない」と見込んでいますが、ヘルプ記事には開始日も、プランごとの枠の大きさも書かれていません。r/ChatGPTCodingでは「何を変えますか」というスレッドが立ちました。今回調べた範囲で、主要メディアの日本語の報道は見当たりませんでした。
実務への一言:これまでは、チャットを使いすぎてもCodexの枠は別でした。12月以降は、どちらかの重い作業がもう一方の枠も減らします。今のうちに、ふだんの依頼のうちInstantで足りるものはどれかを分けておくと、切り替わっても慌てずに済みます。チームで使っている会社は、枠の大きさが公表されたら、Codexを多く使う人の分が足りるかを最初に確認してください。
Power AutomateのAI Builderクレジットが終わりへ。自動では引き継がれず、足りないとフローが止まる
Microsoftは10月26日の管理者向け通知(MC1526652。第三者が公開している通知の控え)で、AI BuilderクレジットをCopilotクレジットに置き換える準備を呼びかけました。機能がなくなるわけではなく、変わるのはライセンスです。2026年11月1日で追加購入の容量パックは提供を終え、この日以降に新規購入や更新をするPower PlatformとDynamics 365のライセンスには、AI Builderクレジットが付かなくなります。契約中の分は期間の終わりまで使えるので、Microsoftの説明のとおり、実際の期限は会社ごとの契約日で決まります。注意点は、Copilotクレジットへの自動変換がないことと、両方のクレジットがなくなるとAI Builderの実行が止まり、アプリやフローが中断することです。
換算の比率も一定ではありません。Microsoftの料金表では、請求書や領収書の解析は1ページあたり8 Copilotクレジットで、従量課金の目安は0.08ドルです。AI Builderクレジットの場合は32クレジットで、年払いの容量パックの価格で計算すると0.016ドルです。前提の違う価格の比較ですが、書類処理を大量に回している会社は単価が大きく変わる可能性があります。一方、文字の読み取り(OCR)は1ページ0.1 Copilotクレジットで、0.001ドルです。日本語ではMicrosoftの説明ページや一部企業のブログがありますが、主要メディアの報道は今回調べた範囲で見当たりませんでした。
実務への一言:Power Automateで書類の読み取りやプロンプトを使っている会社は、管理者が次の3つを確認してください。①AI Builderの容量パックと対象ライセンスの契約終了日(容量パックは自動更新を切るよう案内されています)。②Power Platform管理センターの「ライセンス」から「容量アドオン」「レポートのダウンロード」で出せる、環境別の消費量。③Power Automateの「オートメーション センター」にある「AI Builder activity」で分かる、実際に使っているフロー。そのうえで、同じ量のCopilotクレジットで足りると決めつけず、料金表で計算し直します。止まると困る請求書処理のようなフローから先に見てください。
Goldman Sachs、Claude CodeとGitHubのツールをエンジニア限定に。バンカーとトレーダーは使えなくなった
米Goldman Sachsは、Claude CodeとMicrosoftのGitHubのツールを使える人をエンジニアに絞りました。Bloombergが11月2日、10月に更新された社内の指針をもとに報じたものです。トレーディングとソフトウェアの両方にまたがる「ストラッツ」と呼ばれる職種は対象外です。同社の広報は「試用の期間に生産性やリスク管理などを評価し、長く使いこなせる人の手に渡すことにした」と説明しています。
Gadget ReviewがFA Magazineを引いて伝えたところでは、エンジニア以外の社員は、顧客の取引の流れの監視、市場の変化のモデル化、文書や図版の作成、試作品づくりに使っていました。同社のCIOは7月に、エンジニア以外がAIでソフトウェアを作ることを評価していたとも報じられています(Techstrong.ai)。評価の中身は公表されていません。確認できた範囲で、日本語の報道は見当たりませんでした。
実務への一言:これは「AIをやめた」話ではなく、「広く試してから、渡す相手を選び直した」話です。AIコーディングツールは使う人の権限で動くため、機密情報を扱う部署では、普通のチャットとは確認すべきことが変わります。エンジニア以外にも広げている会社は、誰が使うか、どのデータに触れてよいか、作ったものを誰が確認するか、の3つを決めておいてください。これが決まれば、全面禁止にせず続けられる業務も見えてきます。
Postmanのデスクトップ版が、Claude CodeとCodexにプラグインを自動で入れていたと報告。Postmanは取り消しを表明
API開発ツールのPostmanについて、デスクトップ版が利用者の操作なしに、Claude CodeとCodexへ自社のプラグインを入れたという報告がGitHubに出ました。報告者のMacのログには、10月24日に「auto-existing-upgrade」のきっかけで両方に入れたという記録があったそうです(バージョン12.33.4)。Codexでは、セッションの開始時に動くフックが登録され、APIに関する作業でPostmanのスキルを読み込むようエージェントに指示する内容でした。インストーラーがそのフックを自分で承認していたとも報告されています。ただし、報告者は「データが外部に送られたとまでは主張していない」と明記しています。1台のMacでの観察です。
Postman側の担当者は11月5日、別々に入れて設定するのが難しいという声があったのでまとめたと説明しました。そのうえで「この変更は元に戻す」「利用者が適切に制御できる形に作り直す」と書いています。ただし、すでに入ったものをすべて元に戻す公式の手順は、このスレッドにはありません。確認できた範囲で、日本語の報道は見当たりませんでした。
実務への一言:社内でPostmanとAIコーディングツールを併用している人は、~/.codex/config.toml と ~/.claude/settings.json に「postman」の文字がないか探してください。あれば、自分で入れたものかを確かめ、不要なら外します。先週号の改ざんされた拡張機能とは性質が違いますが、「別の製品の更新で、AIへの指示が書き換わることがある」という点は同じです。AIツールの設定ファイルも、社内の点検の対象に入れておくと安心です。
「学習に使わない」設定は、ときどき見直す。Geminiの仕様とCodexでの報告
Hacker Newsで、AIの学習設定に関する話題が2つ続きました。1つは、個人アカウントのGeminiは有料プランでも会話が学習に使われるという指摘です。Googleのプライバシーの案内によると、「Keep Activity」の設定がオンだと会話はサービス改善に使われ、一部は人が確認します。オフにすれば、フィードバックを送らない限り、今後の会話はAIの学習に使われません。その場合でも72時間は保存され、履歴には残りません。一時チャットも学習に使われません。仕事や学校のアカウントには別の条件が適用されることがあります。
もう1つは、Codexで「Improve the model for everyone」の設定をオフにしていたのに、いつの間にかオンに戻っていたという投稿です。投稿者と同僚の複数人で気づいたとのことで、同じ経験を書く人がいる一方、オフのままだという人もいます。スレッドにOpenAIの回答はなく、原因は分かっていません。あくまで利用者の報告です。
実務への一言:個人アカウントのChatGPTやGeminiを業務に使うことを認めている会社は、設定の確認を一度きりにせず、四半期に1回などの点検項目にしてください。ChatGPTはデータコントロールの設定、Geminiはアクティビティの設定で確認できます。機密情報を扱うなら、個人の設定に頼らず、学習に使わない条件で契約した法人向けプランへ寄せるのが確実です。
そのほかの動き
- 米Rampのデータによると、8月から9月にかけて企業のAIトークンへの支出は1.5%しか増えませんでした(7月は前月比42%増)。使用量は増えています。値下げ競争に加え、高いモデルを初期設定から外す、社員に予算を設けるといった工夫が広がったためとTechCrunchは伝えています。従業員1人あたりの月額は中央値の企業で12〜15ドルです。10月は8.9%増と持ち直しました
- OpenAIは11月5日、脆弱性の発見と修正に特化したGPT-6 Cyberを、審査を通った専門家向けの最上位の枠で提供し始めました。Linuxカーネルで権限昇格につながりうる948件を見つけて修正案を作ったとも公表しています。AIで見つかる脆弱性は増えていくので、自社のサーバーやPCの更新を後回しにしない体制が前より重要になります(TechCrunch)
- Perplexityは、常時動くエージェント「Teammates」を公開しました(The Verge)。複数の役割を同時に任せられ、Slackからも話しかけられます。月200ドルのMaxプランが必要です
- Anthropicは、銀行やカードの口座をPlaid経由で読み取り専用でつなぎ、支出を分析する「Personal Finance」を、米国のPro、Max、Ultraの利用者向けにベータ公開しました(TechCrunch)。日本では今のところ使えません
- Claude Codeは、Opus 5.5で既存のゲームを再現する依頼を避けるよう調整されました。Anthropicの社員が認めています。逆コンパイルなどの正当な作業まで断られたという報告も出ており、同社は調整を続けるとしています(Tom's Hardware)
海外ではこう使われている(今週のReddit)
ここからは、世界最大級の掲示板コミュニティRedditで今週話題になった「AIのリアルな使われ方」です。いずれも投稿者本人の報告で、内容はスレッドへのリンクから確認できます。
機械系エンジニアがChatGPTで自社の基幹システムを作り、翌日から現場で使い始めた
r/ChatGPTProの「I'm not a programmer, but I just built an ERP with ChatGPT」という投稿です。投稿者はメキシコの産業建設会社で働く機械系エンジニア兼オペレーション責任者で、Pythonを少し学び始めた程度だそうです。表計算と紙に散らばった情報に嫌気がさし、ChatGPTと一緒に在庫管理、購買、倉庫間の移動、社員の備品管理、発注書、受領書の印刷などを備えたシステムを作り、サーバーに載せました。業務の決まりを説明するのが自分、ソフトウェアを作るのがChatGPTという分担です。
コメントには厳しい声が並びました。「作るのは安いが、保守と運用は安くない」「あなたがサポート担当になる。2か月もすれば高揚感は消える」という経験談や、まずバックアップと復元、バージョン管理、外部からのアクセス制限を考えるべきだという助言です。一方、中小企業の選択肢は「きちんとした製品か自作か」ではなく「自作か何もないか」だ、という擁護も支持を集めました。
現場の業務を知る人が自分で作れる時代になったのは確かですが、話の続きは使い始めてからです。社内で同じことをするなら、公開の前に、毎日のバックアップとその戻し方、社外からアクセスできない設定、作った人が休んだときの担当者の3つを決めておくと、失敗したときの傷が小さくて済みます。
請求書の読み取りは、どのMicrosoftツールを選ぶか。自社の請求書で比べる手順
r/PowerAutomateの「AI Builder vs Copilot Studio Extract node vs Azure Document Intelligence」という投稿です。会計事務所向けに導入を手がけている会社の投稿で、自社ブログへのリンクも付いています。結論は「すでに持っているツールのうち、実際の請求書でのテストに通る一番簡単なものを選び、金額は必ず人が承認する」です。注意点として、AI Builderの「Process documents」の結果は文字列で返るので、数値や日付に変換して確かめること、項目ごとの信頼度で確認の順番を並べ替えられること、Azure Document Intelligenceは保守する開発者がいる場合に向くことを挙げています。
比べ方も具体的です。きれいなPDF、スマホの写真、複数ページ、明細の長いもの、いつも崩れる取引先の書式を、個人情報を消して混ぜます。各ツールに同じ項目を読ませて、必須項目の正しさ、明細の抜け、1枚あたりの確認時間を測り、手入力とも比べます。自動で通してよいしきい値は、自社の結果から決めます。
試すなら:冒頭で取り上げたAI Builderクレジットの件で単価を見直す会社は、ちょうどよい機会です。まず実際の請求書を10枚、上の書式が混ざるように選びます。Power Automateの「Process documents」に読ませて手入力と比べ、1枚あたりの確認時間とクレジット消費を記録してください。前提として、AI Builderを使えるライセンスと容量が必要です。
Power Automateの移行手順書を、Claudeと一緒に作って公開した人がいる
r/PowerAutomateの「There has been no guide to moving Power Platform solutions between tenants with code」という投稿です。投稿者は、Power Automateのソリューションを別のテナント(別の組織の環境)へコードで移す手順を、Claudeを使ってまとめ、GitHubに無料で公開しました。2つのテナントへのサインイン、受け入れ側で先に必要なもの、接続参照のつなぎ直し、フローの有効化、2つのコピーの同期、27種類のエラーとその原因までを扱っています。
変わっているのは、書いてある内容ごとに「再確認済み」「実証済み」「測定済み」「未検証」のような印が付いていることです。AIと作る手順書が抱えやすい「もっともらしいが確かめていない記述」を、読み手が見分けられます。投稿者によると、確かめたのはユーザーのサインインと、アンマネージドのソリューションが中心で、サービスプリンシパルでは試していません。インポートは受け入れ側の変更を上書きし、元に戻せないとも注意しています。
試すなら:このやり方は移行に限らず使えます。社内の手順書をAIに書かせるときに、「各手順に、確認済み、未確認、推測のいずれかの印を付けて。確認済みにするのは、私が実行した結果を貼ったものだけ」と頼んでみてください。フローの移行そのものを試す場合は、必ずテスト環境で、上書きされるものの控えを取ってから行います。
作業を始める前に、AIに1問ずつインタビューしてもらう
r/ChatGPTCodingの「Before your agent plans anything, let it interview you」という初心者向けの投稿です。投稿者はClaude Codeをプランモードに切り替えてファイルを変更できない状態にしてから、「計画を立てる前に、作りたいものについて私にインタビューして。質問は1回に1つ。誰のためのものか、何をもって完成とし、どう確かめるか、すでにあるもの、制約、範囲外のものを聞いて。1ページの概要書が書けるようになったら質問をやめ、BRIEF.mdに書いてから計画を書いて」と頼むそうです。あとから追加の依頼をするときは、まず概要書と見比べさせ、範囲内か、拡張か、方向転換かを判断させます。
コメントでは「範囲外を書くことが一番効く」「概要書をファイルにすれば、新しいチャットでそのファイルを指すだけで続きができる」という声がありました。別の投稿でも、曖昧な依頼に対する指示の効き目を24回の実行で比べた人がいます。「考えてから書く」などのルールを書いたファイルがないと3回とも推測でコードを書き、あると3回中2回は先に質問したそうです。小さな作業4つを各3回ずつ試しただけの規模で、この結果は曖昧な依頼での比較ですが、ルールで変わるのは主に「いつ人に判断を聞くか」だった、という結果は参考になります。
試すなら:Claude Codeでは Shift+Tab でプランモードに切り替えて、上の依頼を貼ります。プランモードのないツールなら、最初に「まだファイルを編集しないで」と書きます。ChatGPTに企画書や資料を頼むときにも、「質問は1回に1つ」と「範囲外も聞いて」の2点を足すだけで使えます。
AIの「できました」を疑う。結果の中から探すと見つかる言葉
r/ChatGPTCodingの「When a coding agent can't do what you asked, it quietly builds something easier」という投稿です。投稿者によると、コーディングのエージェントは難しい壁に当たると、止まって報告せずに小さな版を作り、「完了」と書くことがあります。あとになって、同期が最初のページしか処理していなかった、検証が決め打ちの一覧だった、と気づくわけです。そのときコードや要約にほぼ必ず残る言葉として、「for now」「for simplicity」「simplified」「placeholder」「mock」「as a fallback」などを挙げ、差分を読む前にこれらを検索するよう勧めています。
対策の1つ目は、AGENTS.md や CLAUDE.md に「依頼どおりにできないなら、止まって理由を伝える。簡単な版に置き換えない」と書くことです。2つ目は、作業の最後に「依頼と違う箇所をすべて挙げて。簡略化、仮の実装、決め打ち、省略、先送りを含む。なければ『なし』と答えて。やったことの要約は要らない」と頼むことです。作った本人ではない別のモデルに聞くほうがよいそうです。なお投稿者は、プロンプトを保存するブラウザ拡張機能の開発者で、投稿でそれにも触れています。コメントでは、レビュー役には作業者の要約を見せず、依頼と差分とテスト結果だけを渡すと効く、という工夫も共有されました。
試すなら:コードを書かない人にも使えます。AIに集計や資料を頼んだあと、「依頼と違う点、省略した点、推測で埋めた点をすべて挙げて。なければ『なし』と答えて」と聞いてみてください。Claude CodeやCodexを使う人は、まず上の1行を CLAUDE.md か AGENTS.md に足すところからです。
編集後記
今週印象に残ったのは、Goldman Sachsとメキシコの機械系エンジニアの対比です。一方は全員に広げたツールをエンジニアに絞り直し、もう一方はプログラマーでない人が基幹システムを作って翌日から動かしました。どちらが正しいという話ではなく、問われているのは同じことだと思います。作ったものを誰が確かめ、誰が面倒を見るのか、です。AI Builderの料金の見直しも、Postmanの設定の件も、請求書を人が承認する手順も、結局はそこにつながります。作れる人が増えるほど、確かめる側の設計が仕事の中心になっていきそうです。来週も、現場でのその工夫を拾っていきます。
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