営業リストを外部から買うと、それなりの費用がかかります。しかも届いたリストを開くと、対象外の業種が混ざっていたり、情報が古かったり、「なぜこの会社が自社の見込み客なのか」の根拠がなかったりします。
この記事の結論を先に書きます。BtoBの営業リストは、公開情報から自分で作れます。そして2026年の今、公開情報からリストを作る作業のほとんどはAIに任せられます。どんな公開情報が使えるのか、AIへの頼み方、やってはいけないことまで、この記事だけでリスト作成を始められる形でまとめます。
発想の転換: 営業リストは、実はもう公開されている
多くの会社の営業リスト作りは、「自社の顧客になりそうな会社を、属性で絞って探す」やり方です。業種、従業員数、地域。リスト販売会社から買う場合も、基本はこの属性絞り込みです。
これに対して、公開情報からのリスト作成は発想が逆です。「自社の顧客がやりそうな行動を、先にやった会社の一覧」を探しにいきます。
例で考えます。会計サービスを売りたい会社があるとします。属性で絞るなら「従業員50名以下の中小企業」で、これは日本中に無数にあります。一方、行動で絞るなら、たとえばIT導入補助金の採択企業の一覧が使えます。この一覧に載っている会社は、「業務のIT化にお金を使う」という意思決定を実際にして、国の審査を通り、予算を確保した会社です。会計サービスの見込み客として、無作為の中小企業リストとは確度がまるで違います。
そして重要なのは、この採択企業の一覧が誰でも見られる形で公開されていることです。探せば、リストはもうそこにあります。誰も営業リストとして整えていないだけです。
公開リストの4つの価値
公開情報から作ったリストには、買うリストや電話帳的な名簿にはない4つの価値があります。

1つ目は、探す作業が「発掘」から「整形」に変わること。ゼロから見込み客を見つけ出すのではなく、すでに世の中にあるリストを集めて整える作業になります。かかる時間の桁が変わります。
2つ目は、リストに載っていること自体がニーズの証明になること。ここが最大のポイントです。補助金の採択企業一覧に載っている会社は、その分野に投資する意思決定を実際にした会社です。業種や規模で絞った推測のリストとは、見込みの確度が違います。
3つ目は、タイミングが分かること。公開リストの多くは更新されます。新しく載った会社は「いま動いた会社」です。今年度の採択企業は、まさに今、予算を確保して動き出そうとしている会社です。
4つ目は、提案の材料が手に入ること。リストの掲載内容(何の事業で採択されたか、どんな特許を出したか)から、その会社に合わせた提案文を組み立てられます。全社に同じ文面を送る営業から、1社ごとに根拠のある提案へ変えられます。
日本で使える公開リストの例
「自社の業種で使える公開リストなんてあるのか」と思われるかもしれません。実際には、法人を対象にした公開リストは相当な数があります。代表的なものを挙げます。
| 公開リスト | 何が分かるか | どんな営業に使えるか |
|---|---|---|
| 補助金の採択者一覧(ものづくり・IT導入・事業再構築など) | 投資テーマと予算確保の事実 | 採択テーマに関連する製品・支援サービス |
| 特許・商標の出願情報(J-PlatPat) | 技術開発の方向性 | 知財関連・技術系サービス |
| 新設法人の登記情報 | 創業のタイミング | 創業期に必要な士業・システム・設備 |
| 建設業許可・宅建業者・介護事業所などの許認可名簿 | 業種と所在地の正確な母集団 | 業種特化のサービス全般 |
| 求人情報 | 採用投資の状況・使っているツール名 | 採用支援・教育研修・省人化 |
| 上場企業の適時開示・統合報告書 | 経営課題と投資計画 | 大手向けの提案営業 |
| プライバシーマーク・ISMS認証の取得事業者一覧 | セキュリティ投資の実績と更新時期 | セキュリティ・監査関連 |
| 展示会・業界イベントの出展社一覧 | 販促投資と注力分野 | 出展企業向けの販促・制作・人材サービス |
共通しているのは、どれも**その会社の「行動の記録」**だという点です。属性(業種・規模・地域)ではなく行動でリストを引くと、営業の当たり率が変わります。
探し方のコツは、行動の記録を3種類に分けて考えることです。お金を使った記録(補助金・協賛・出展)、資格や許可を取った記録(許認可・認証)、何かを始めた記録(設立・新サービスのプレスリリース・求人)。自社の顧客が買う直前にやりそうな行動はどれか、から逆算すると見つかります。
業種別に当てはめると、たとえばこうなります。採用支援や研修を売るなら、求人を出し続けている会社の一覧(お金を使った記録)。製造業向けの設備やソフトを売るなら、ものづくり補助金の採択企業(同)。Web制作や士業なら、新設法人の登記情報(始めた記録)。建設業向けサービスなら、建設業許可の名簿(資格の記録)。どの業種でも、3種類のどれかには必ず引っかかります。
なお、この表のリストはすべて法人の公開情報です。個人情報のリスト化とは扱いがまったく違う、という点は後述します。
AIへの任せ方: 5つの手順
ここからは、公開リストを営業リストに変える作業をAIに任せる手順です。引き続き「IT導入補助金の採択企業から、会計サービスの見込み客リストを作る」を通し例にします。ツールは、Web検索と表の整形ができるAIならどれでも同じ設計が使えます。

手順1: 「誰の、どんな行動の記録を探すか」を先に言語化する。「見込み客のリストを作って」では動きません。「IT導入補助金の今年度の採択企業を、採択された事業内容つきで集めて」のように、行動と証拠の形まで指定します。
このとき、リストの用途も1行添えると精度が上がります。「会計サービスの見込み客として使う。だから採択内容から経理まわりの状況が推測できる情報を優先して」。用途を知っているAIと知らないAIでは、後述する「接点の仮説」の質が変わってきます。
手順2: リスト源を人間が特定する。どの公開リストを見るかは、業界を知っている人間が決めた方が速くて確実です。補助金なら事務局の公式サイトに採択結果のページがあります。AIには「他に同種のリスト源があれば提案して」と添えると、思いつかなかった源が出てくることがあります。提案された源をそのまま信じず、1つ2つ実際に開いて中身を見てから採用する、という一手間だけかけてください。
手順3: 取得のルールを指示に含める。指示に入れるべき要素は3つです。「出典URLのない会社は掲載しない」「取得できなかった情報源は、取得できなかったと書く」「収集だけを行い、営業行為(問い合わせ送信など)は一切しない」。
1つ目が特に重要です。AIにリスト収集を任せると、それらしい会社名を推測で埋めてしまうことがあります。「出典が取れなければ載せるな」と最初に指示したうえで、納品された表の出典URLを人間が数件抜き打ちで開いて確かめる。この二段構えで、リストの信頼性が守られます。
3つ目も外せません。リスト作成と営業実行は必ず分けます。誰に、どの順番で、何と言って送るかは人間の仕事です。
手順4: 表の列を先に設計する。会社名・行動の記録(何に、いつ)・事業領域・自社との接点の仮説・出典URL。この5列を最初に指定します。通し例なら「◯◯社・IT導入補助金2026年採択・製造業・在庫管理のIT化で採択→会計まわりも紙の可能性・出典URL」のような1行になります。列を後から足すと収集をやり直すことになるので、先に決めます。
手順5: 人間が検証して絞る。できた表をそのまま営業対象にはしません。行動の濃さ(採択額の大きさ、複数回の採択など)と自社サービスとの一致度で並べ替えて、まず上位10〜20社のショートリストに絞ります。ここは営業戦略そのものなので、AIに任せず人間が決めます。
できあがりのイメージも載せておきます。通し例の表は、こんな1行が並ぶ形になります。
| 会社名 | 行動の記録 | 事業領域 | 接点の仮説 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| A社 | IT導入補助金2026採択(在庫管理) | 金属加工 | 在庫はIT化済み・会計は次の候補 | 事務局サイトURL |
| B社 | 同(予約システム) | 飲食チェーン | 店舗数が多く経理集約に需要か | 同上 |
| C社 | 同(勤怠管理) | 介護 | 労務はIT化済み・請求業務が残る仮説 | 同上 |
「接点の仮説」の列があることで、このリストはそのまま営業トークの下書きになります。買ったリストには絶対に付いてこない情報です。
この5手順で、「なぜこの会社が候補なのか」の根拠が全行に付いたリストができます。
注意点: やってはいけないことが3つある
公開情報のリスト化には、越えてはいけない線があります。
1つ目は、利用規約と技術的な礼儀。Webサイトには利用規約があり、機械的なアクセスを制限しているサイトもあります。取得を拒否しているサイトから無理に取らない。取得の頻度を抑える。ログインの内側にある情報を取らない。判断に迷う場合は、行政や公的機関が配布しているデータ(オープンデータ・CSV配布)から始めるのが安全です。補助金の採択結果はまさにこの安全側で、多くはPDFやCSVで公式配布されています。
2つ目は、個人情報を混ぜないこと。この記事で挙げたのはすべて法人の公開情報です。個人名のリスト化は、たとえ公開情報でも個人情報保護法の規律がかかります。営業リストは法人単位で作り、個人への接触は会社の正規の窓口経由にします。SNSで見つけた担当者名をリストに足す、のような拡張をAIに頼まないでください。便利そうに見えて、越えてはいけない線の向こう側です。
3つ目は、AIの推測を事実として扱わないこと。前述の通り、出典のない行は捨てます。もう1つ付け加えると、リストの鮮度も過信しないことです。公開リストは更新されますが、会社の状況はもっと速く変わります。採択後に社名が変わった、事業を譲渡した、ということは普通に起きます。営業の直前に、その会社の直近の発表をひと目確認する工程を挟みます。この直前確認もAIに任せられる作業で、「この10社について、直近3ヶ月の発表やニュースがあれば会社ごとに1行で」と頼めば数分で返ってきます。
よくある疑問に答えておく
「それはスクレイピング(自動収集)では? 禁止されているのでは?」 一律に禁止されているわけではありません。日本では、公開されたWebサイトの閲覧・情報の参照自体は通常の利用です。問題になるのは、利用規約で明示的に禁止されたサイトからの機械的な大量取得、アクセス集中でサイトに負荷をかける行為、ログインの内側や有料領域のデータ取得などです。迷ったら公式配布のデータから始めてください。
「リスト販売会社から買うのと、結局どちらが得か」 用途によります。「全国の製造業3,000社」のような広い母集団が必要な物量型の営業なら、買う方が速いこともあります。公開リスト方式が勝つのは、行動で絞った根拠つきの数十〜数百社を丁寧に攻める営業です。1社ごとに提案の文脈が付いたリストは、そもそも売っていません。

「一度作ったリストは、どう更新すればいいか」 月1回、同じ指示書で同じ収集を回して、前回との差分(新しく載った会社)だけを見るのがおすすめです。差分こそ「いま動いた会社」なので、営業のタイミングとして最良です。補助金なら採択発表の直後、認証なら更新時期の数ヶ月前が動きどきです。指示書が資産になっているので、2回目からはほぼ待つだけで済みます。
「AIに任せたら、自分でやるより遅くならないか」 初回は指示の設計に時間がかかるので、体感は「同じくらい」かもしれません。効いてくるのは2回目以降です。指示書が資産になるので、対象を変えて(別の補助金、別の許認可名簿、別の展示会)同じ品質のリストが繰り返し作れます。営業リストは1回きりでは終わらないので、この差は積み上がります。
発展: 公開リストは事業そのものにもなる
ここまでは「自社の営業リストを作る」話でしたが、この考え方はもう一段先があります。
海外では、公開データベースを起点にした事業が立ち上がっています。たとえば特許の公開データベースを使うと、「特許を出願している企業」という顧客リストと、「その特許の内容」という提案材料が同時に手に入ります。公開リストが顧客名簿と商品原料の両方になっている構造です。
日本でも同じ構造は作れます。考え方は、公開リスト×そのリストに固有の義務・締切×AI代行の交差点を探すことです。補助金の採択企業には実績報告の義務がある。認証の取得企業には更新審査がある。新設法人には登記後の手続きがある。リストに載っている全員が同じ義務と締切を抱えているなら、その義務を支援するサービスは、営業先が公開されている事業になります。

自社の営業リストを1回作ってみると、この構造が実感として見えてきます。まず1回、自社の営業のために作ってみることをおすすめします。
まとめ: リストを買う前に、行動の記録を探す
- BtoBの営業リストは、公開情報(行動の記録)から作れる。買うリストとの違いは、全行に「なぜこの会社か」の根拠が付くこと
- 行動の記録は「お金を使った・資格を取った・何かを始めた」の3種類で探す
- AIに任せるのは収集と構造化まで。リスト源の特定・優先順位づけ・営業の実行は人間が持つ
- 出典のない行は捨てる。法人の公開情報に限る。規約を守る
リスト作成が「営業担当が夜にやる作業」から「AIが集めて人間が選ぶ工程」に変わると、営業の入口の議論(誰に売るか)が「リストのどこから順に当たるか」という実務の議論に変わります。この変換が、公開リスト方式の一番の効能です。
営業リストの作成や、営業準備の自動化に取り組みたい企業の方へ。KOIYALでは、この記事で書いた仕組みの導入を支援しています。自社の業種で使える公開リストの洗い出し、AIへの指示書(収集ルール・検証手順つき)の設計、リスト作成から提案文の下書きまでをつなげる営業準備の自動化。このあたりはお任せいただけます。社内に定着させたい場合は、営業チーム向けのAI研修として提供することもできます。お問い合わせからご相談ください。
自分でやってみたい方は、まず自社に関係のある補助金や許認可の一覧を1つ選んで、この記事の5つの手順をそのまま試してみてください。