AIで何かやりたい。社長がそう言っている。社長からAI活用の検討を頼まれた。当社に来る相談には、こういう入り口のものがあります。話を聞いていくと、何に困っているかはまだ決まっていなくて、AIという道具のほうが先に決まっています。
当社がこういう相談で最初に聞く質問は1つです。去年、AIがなくても解決したかった問題は何でしたか。 初回の打ち合わせでも、10月14日に新潟で開かれる2026ビジネスコネクト EXPO in NIIGATAのブースでも、同じ質問から始めます。
この記事は、この質問を最初に置く理由、答えの聞き方、答えから次に進む分岐を書きます。読者は、AIを入れる側の経営者と、社内で検討を任された担当者です。質問1つで、何を解くべきかを整理するきっかけになるので、相談に来る前に自分で答えてみてください。
結論を先に書きます。
- AIで何かしたい、から始めると、道具に合う問題を探すことになります。 道具に合う問題だけを探すと、優先度の低い問題を選びやすくなります。入れた仕組みが使われなくなる原因の1つは、ここにあると当社は考えています
- 去年、AIがなくても解決したかった問題には、解く価値を確かめる材料が揃っています。 困った人がいて、解けなかった理由があって、解けたら何が変わるかを本人が言える。AIを当てはめる先として、確かな材料です
- 答えを聞いたら、去年解けなかった理由を4つの型に分けます。 手が足りなかった、やり方が分からなかった、決まらなかった、道具がなかった。型によって、AIで何が変わりうるかと、研修・コンサルティング・FDE型支援のどれに向かうかが変わります
この質問はどこから来たか
質問の出どころを先に書いておきます。考え方は、当社の発案ではありません。2026年9月に、株式会社ヘンリーのCTOである縣直道氏の講演資料「『AI』の事業インパクトを最大化する」を読みました。当社の読み取りでは、資料の前半にこういう趣旨のことが書かれています。AIは釘を探すハンマーになりやすい。事業の構造と課題のつながりを見て、どれを解けば事業が変わるかを決めるのは、AIとは無関係にできる。AIがなくても解くべきだった課題から入るのが近道だ。
読んだ日に、当社はこの考え方をもとに、初回の打ち合わせの最初の質問を組み立てました。質問の文そのものは、当社が初回相談用に作ったものです。もともと当社は、AIありきで提案しない、と自社のサイトに書いています。それを質問の形にすると、この1問になります。
聞き方には、少しだけ手を加えています。資料の言い方は「解くべきだった課題」ですが、当社は「解決したかった問題」と聞きます。べきで聞くと、相手は自社にとっての正解を考え始めることがあります。したかったで聞くと、去年の自分の困りごとを思い出しやすい。当社が欲しいのは後者なので、具体的な経験を聞くためにこの言い方にしています。
質問の3つの言葉
この質問は、3つの言葉でできています。それぞれに役目があります。
去年。 期間を区切るのは、答えを事実に寄せるためです。これから困りそうなこと、世の中で言われていること、ではなく、自分の会社で実際に起きたことを思い出してもらいます。去年の繁忙期に何が起きたか、誰が残業したか、何が遅れて誰に謝ったか。1年という長さは、季節の波を一周しているので、年に1度しか起きない困りごとも拾えます。
AIがなくても。 この言葉で、道具をいったん外します。AIで何ができるかを知っている人ほど、AIでできそうなことを問題だと思いやすい。議事録を自動で書けると知っていると、議事録を書く時間が問題に見えます。実際にその会社で困っていたのは、議事録が読まれないことだった、ということもあります。道具を外して聞くと、困りごとを道具の都合でなく、困った度合いの順で並べ直せます。
解決したかった。 解決できなかった、ではなく、解決したかった、と聞きます。できなかったと聞くと、できなかった理由の説明から入りやすい。したかったと聞くと、やりたかったことが先に出ます。そして、したかったのにできなかったのには、理由があります。その理由を後で聞きます。これが、この記事の中心です。
3つの言葉を揃えると、答えはたとえば次のような形で出てきます。実在の会社の話ではなく、整理の仕方を示すための例です。
- 受注が増えたのに見積もりを作れる人が1人で、去年の秋に待たせた案件があった
- 工場の日報が紙で、月末に事務の人が転記している。去年はその人が休んで月次の数字が遅れた
- 取引先ごとに請求書の形式が違い、毎月1人が数日かけて揃えている。去年、担当が辞めると言ったときに初めて困った
- 本社で決めたルールが拠点に届かず、拠点ごとに別のやり方で回っている。去年の監査で指摘された
どれも、AIという言葉が入っていません。それでいいのです。
答えの聞き方。4つの深掘り
答えが1つ出たら、そこから4つ掘ります。基本はこの順序です。

1. 誰が、いつ、困ったか。 問題を人と時期に結びつけます。見積もりの話なら、見積もりを作る人は誰で、待たせた案件は何月だったか。ここで、問題が経営者の頭の中にあるだけなのか、現場に実在するのかが見えてきます。担当者の名前がすぐに出てこない問題は、関係する部署、業務、影響の範囲を追加で確かめます。経営の課題は、現場の1人の名前には結びつかないこともあるからです。
2. なぜ去年、解決できなかったか。 これがいちばん大事な問いです。答えは次の節で4つの型に分けますが、聞くときは型を意識せず、そのまま聞きます。忙しくて手が回らなかった。やり方を知っている人がいなかった。社長が決めなかった。やろうとしたが道具がなかった。理由は1つとは限りません。複数出たら、全部書きます。
3. 解けたら、何が変わるか。 時間なのか、お金なのか、辞める人が減るのか、取引先との関係なのか。ここで数字が出る問題は、解く価値を確かめる材料が揃っています。数字が出ない問題でも、変わる相手が具体的なら十分です。逆に、何が変わるかを本人が言えない問題は、今は優先順位を下げます。
4. 解き方。 ここで初めて、AIを使うかどうかを考えます。順番が逆になると、AIで解ける問題だけを探すことになります。1から3まで聞いた問題の中には、AIを使わず、設定の変更や、手順を1枚にまとめること、決める人を決めることで解決できるものもあります。AIが主役でない問題を、AIを使わずに解くことも、当社の仕事です。
初回の打ち合わせでは、30分を目安に1から3を整理します。1と2は相手に話してもらい、3は一緒に言葉にします。4の解き方は持ち帰って確かめます。初回に解き方を出さないのは、1から3の内容で解き方がまるで変わるからです。
去年解けなかった理由の4つの型
2で聞いた理由を、4つに分けます。この分け方が、次の分岐を決めます。

| 去年解けなかった理由 | 答えの例 | AIで何が変わりうるか | 最初に手をつけること |
|---|---|---|---|
| 手が足りなかった | 忙しくて後回しになった。1人しかできない人がいて、その人の手が空かなかった | その人の作業を分解して、一部をAIに渡せれば、作業時間を減らせる可能性がある。属人化や兼務による負担には、手順の共有や役割分担も要る | 業務を作業名まで割る |
| やり方が分からなかった | 誰も経験がなかった。どこから手をつければいいか分からなかった | AIはやり方の候補を出す手段の1つになる。候補から選ぶには、自社の業務を知っている人が要る | 何が分からなかったのかを分ける |
| 決まらなかった | 社長の判断待ちで止まった。部門の間で方針が合わなかった | AIだけでは、決める人や権限の問題は解消しない。判断材料を整理する用途には使える | 決める人と期限を決める |
| 道具がなかった | やろうとしたが、手で全部やるには量が多すぎた。システムを作る予算がなかった | 以前は費用や精度が合わなかった作業も、現在の道具で再検討できる場合がある | 去年と今で、使える手段が変わったかを確かめる |
手が足りなかった。注意が要るのは、手が足りないという言葉の中に、3つのことが混ざっていることです。作業の量が多い、その作業ができる人が1人しかいない、その人が他の仕事も抱えている。AIで変わりうるのは主に1つ目で、作業を分解して一部を渡せれば、作業時間を減らせる可能性があります。2つ目と3つ目は、手順を共有してできる人を増やすか、役割分担を変えることが要ります。AIで時間を作った分を、どこに回すかまで決めて初めて、手が足りなかった問題は動きます。
やり方が分からなかった。この答えには、2種類が混ざっています。業務改善の進め方そのものが分からなかったのか、取り組む業務は決まっていて、道具の使い方が分からなかったのか。前者なら、何を解くかと進め方を整理するところから入ります。後者なら、使い方を学ぶ研修が効きます。AIは、やり方の候補を出す手段の1つになりますが、候補の中から自社に合うものを選ぶには、自社の業務と制約を知っている人が要ります。
決まらなかった。この型の問題は、AIだけでは解消しません。決めるのは人で、決める人と決める場がないことが原因だからです。ただし、決められなかった理由が、判断材料が揃っていなかったことにあるなら、材料を整理する用途にAIは使えます。当社が初回で「決まらなかった」という答えを聞いたら、AIの話をいったん止めて、誰が決めるか、いつまでに決めるかを先に確認します。AI・DXコンサルティングでは、ここから始めることがよくあります。
道具がなかった。去年と今で、使える手段が変わったかを確かめる型です。紙の日報を読み取って集計する、取引先ごとに形式の違う請求書を揃える、拠点ごとに違う手順を1つの手順書に寄せる。以前は費用や精度が合わなかった作業も、現在の道具で再検討できる場合があります。ただし、本当にできるかどうかは、問題ごとに実物で確かめます。思い込みで「今ならAIでできる」と言わないのが、当社の決まりです。
どの問題から手をつけるか
答えが複数出たとき、どれから手をつけるか。2つの軸で見ます。

横軸は、去年と今で、使える手段が変わったか。AIに限らず、新しい道具、新しい人、新しい予算を含みます。縦軸は、解けたときの価値が大きいか。
- 価値が大きく、使える手段が変わった問題は、最初に手をつけます。新しい手段を含めて解決できるかを確かめ、できるなら最初の題材にします。去年できなかったことが今できる、という体験が、社内の次の問題を引き出します
- 価値が大きいが、使える手段は変わっていない問題は、既存の手段と進め方を見直します。決める人を決める、手順を1枚にする、設定を変える。AIを使うかどうかは、この見直しの中で別に判断します
- 価値は小さいが、使える手段が変わった問題は、小さな実験の枠にします。社内でAIに慣れるための題材に向いています。業務の成果を求めない代わりに、使った人の感想を残します
- 価値が小さく、使える手段も変わっていない問題は、今は優先順位を下げます。問題の一覧には残しておき、状況が変わったら見直します
当社は、初回の打ち合わせで出た答えをこの図に置いて、相手に見せます。右上に置いた問題が1つあれば、次の打ち合わせの題材が決まります。右上が空なら、大きな導入の投資を急がず、既存の手段の改善か、小さな実験から始めることをお勧めします。
AIありきの提案を避ける理由
ここまで読んで、遠回りだと感じる方がいるかもしれません。AIで何ができるかを先に見せたほうが、話が早いのではないか。当社がそうしない理由を3つ書きます。
1つ目。道具から入ると、優先度の低い問題を選びやすくなります。 AIで何ができるかを先に見せると、相手はそれに合う問題を探します。本当に困っていた問題は、見せた道具では解けないかもしれないので、道具に合う別の問題が選ばれます。こうしてできた仕組みは、仕事の困りごとにつながっていないので、定着しないおそれがあります。研修でも同じことが起きます。研修で習った使い方が、自分の仕事の困りごとにつながらないと、使われなくなりやすい。
2つ目。既存の手段で解ける問題にAIを足しても、原因は残ります。 月次の数字が遅れる原因が、転記の手作業ではなく、締め日が部署ごとに違うことだったとします。これは締め日を揃えれば解けます。ここにAIで転記を自動化する仕組みを入れると、締め日の違いはそのままで、転記だけが早くなります。遅れは解消しません。Microsoft 365やGoogle Workspaceの既存の機能や設定で改善できるかを、先に確かめます。
3つ目。問題が先に決まっていると、効果が測れます。 去年、見積もりで待たせた案件があった。今年は何日以内に返せたか。これは、AIを入れる前に問題を決めていたから測れることです。効果の測り方の例です。AIで何かしたい、から始めると、入れた後に何を測ればいいかが決まりにくい。利用率は大事な指標ですが、それだけでは解きたかった問題が解けたかは分かりません。利用率に加えて、処理時間や手戻りの数のように、解きたい問題に対応する指標を決めます。
AIを使わない選択肢を残しておくことは、AIを売る側には不利に見えます。当社はそう考えていません。AIなしで解けた問題は、その会社の中で「解けた」という実績になります。次に本当にAIが要る問題が出たとき、相談先として思い出してもらえれば、それで十分です。
答えから、研修・コンサルティング・FDE型支援のどれに向かうか
当社には、関わり方が3つあります。この質問の答えで、どれに向かうかの見当がつきます。

AI・DXコンサルティングに向かう答え。決まらなかった、という理由が出た会社。そして、やり方が分からなかったの中でも、何を解くかと進め方そのものが未整理の会社です。AIの前に、何を解くか、誰が決めるか、何を測るかを経営者と一緒に決めます。月に数回の打ち合わせで、問題の一覧を作り、上の2軸の図に置き、順番を決めます。解き方がAIでない問題は、AIを使わずに解きます。
研修に向かう答え。取り組む業務は決まっていて、社員が道具の使い方を学ぶ段階の会社です。業務の資料とやり取りがMicrosoft 365かGoogle Workspaceにあれば、CopilotやGeminiを自分の仕事の困りごとに当てる練習を、職種ごとに行います。研修の中で、受講者が自分の「去年の問題」を1つ持ち込んで、それを題材にします。研修で作ったプロンプトを組織の画面に残すところまで含めて設計します。
FDE型支援に向かう答え。道具がなかった、手が足りなかった、という理由が中心で、解き方は見えているが実装する人手が社内にない会社です。社外の推進チームが週1で社内に入り、業務を作業名まで割って、仕組みを作り、運用を社員に移して離れます。業務の手順が人の頭の中にある会社ほど、分解の効果が出ます。内製・SIer・FDEの選び方は別の記事に書きました。
3つは排他ではありません。研修から始めて、受講者の問題の中にFDE型で解くものが見つかることもあります。コンサルティングで順番を決めて、最初の1つをFDE型で動かすこともあります。どこから入っても、最初の質問は同じです。
10月14日に、新潟の展示会で同じ質問を聞きます
2026年10月14日の2026ビジネスコネクト EXPO in NIIGATAに、当社はブースを出します。ブースで聞くのも、この1問です。名刺交換のあと、パンフレットを渡す前に、去年、AIがなくても解決したかった問題は何でしたか、と聞きます。
答えは、社名を出さない形で記録して、翌日の記事で型として整理します。本社と拠点で困りごとがどう違うか、教える人がいない会社が何に困っているか、書類の仕事がどこに偏っているか。来場された会社の声を、当社の研修とコンサルティングの中身を見直す材料にします。
展示会に来られない方は、この記事の次の行動のところに、同じ質問を書いておきました。自分で答えてから、相談に来てください。
注意点
去年に答えが出ない会社があります。 創業して間もない、担当者が最近変わった、去年は別の問題で手いっぱいだった。そういう会社には、この半年、と区切り直して聞きます。期間が短くなるだけで、聞き方は同じです。
手が足りなかった、で止めないでください。 この答えは便利な言葉なので、多くの問題に当てはまってしまいます。手が足りなかったと出たら、何の作業に、誰の手が足りなかったかまで聞きます。そこまで聞くと、道具がなかった、決まらなかった、のように別の理由が見えてくることがあります。
AIで解けるかどうかを、その場で即答しません。 当社は、初回の打ち合わせで解き方を出しません。去年なかった手段が今あるかどうかは、問題ごとに実物で確かめてから答えます。その場で「AIでできます」と言う相手には、何で確かめたかを聞いてください。
課題を聞く人と、実現性を確かめる人は、別でも構いません。 道具を外して聞く、と書きましたが、4つ目の深掘りで解き方を出すには、AIで今できることとできないことを実機で試している人が要ります。社内でこの質問を使うときは、聞く役と確かめる役を分けても成り立ちます。経営者が聞いて、情報システムの担当者や当社のような外部が確かめる、という分け方です。
社内で聞くときは、言い訳を責めないでください。 去年解けなかった理由を聞くと、誰かの不作為に見える答えが出ます。決まらなかった、は社長の問題に見えます。ここで責めると、次からは本当の理由が出ません。理由は型に分けるための材料で、評価のための材料ではない、と先に言っておきます。
KOIYALの見解
AIの相談は、道具の話から始まりやすい。道具のほうが新しくて、話しやすくて、売る側も見せやすいからです。当社も、見せれば驚いてもらえるものを持っています。それでも最初の質問を道具から始めないのは、去年の問題から入った会社に残るものと、道具から入った会社に残るものが違う、と当社が考えているからです。
去年の問題から入れば、残るのは解けた問題です。AIで解けた問題も、AIなしで解けた問題も、両方です。道具から入ると、残るのは道具の使い方と、それに合わせて選んだ問題です。後者が悪いわけではありませんが、会社が本当に困っていたことが、そこに含まれているとは限りません。
当社は、AIを使うかどうかから、一緒に考える、と自社のサイトに書いています。その「一緒に考える」の最初の30分が、この1問です。答えによっては、当社の出番がない、と初回でお伝えすることもあります。それも、この質問を最初に置く理由の1つです。
次の行動
- 自分で答えを1つ書く。去年、AIがなくても解決したかった問題は何でしたか
- その問題が去年解けなかった理由を、1行添える。手が足りなかった、やり方が分からなかった、決まらなかった、道具がなかった、のどれに近いか
- 解けたら何が変わるかを、相手か数字で書く
3行書けたら、それを持って相談に来てください。AI・DXコンサルティングの初回の打ち合わせは、この3行を一緒に読むところから始めます。お問い合わせの本文に3行を書いていただければ、初回の前に当社で2軸の図に仮置きし、足りない情報は打ち合わせで確かめます。