CopilotかGeminiのライセンスを配った。最初の1か月は、社内チャットに使ってみた報告が流れた。半年たって管理画面を開くと、直近の集計期間に使った人は配った人数の一部で、その顔ぶれは集計のたびに同じ。経営者からは、あれはどうなった、と聞かれる。

この記事では、こういう場面を考えます。入れた直後は動いていた。止まったのは数か月後。壊れたわけでも、禁止したわけでもない。ただ、使う人が一部に固定された。

この記事は、この止まり方をした会社に、当社が最初にすることを書きます。読者は、AIの導入を任された担当者と、使われていないライセンス費を見ている経営者です。先に結論を書きます。

  1. 止まっている人を集めて、もう一度全社研修をすることはしません。 最初の研修で使い方は一度聞いています。再研修を決める前に、操作でつまずいているのか、使い道が分からないのか、使う必要を感じていないのかを確かめます
  2. 最初にするのは、止まっている人の仕事を1つ特定して、その仕事でAIが役に立つかを2週間で確かめることです。 会社全体の活用ではなく、ある職種のある業務に絞ります
  3. 止まっている人には3つの理由があり、理由ごとに対策が違います。 自分の仕事に置き換えられない、困っていない、難しいと思っている。聞き分けてから動きます

インハウス経営(AIを活用し、自社で業務を改善し、自社で仕組みをつくる経営)を目指す会社にとって、この局面は分かれ道です。ここで外から研修をもう1回買って終わる会社と、止まった人を自社で動かす手順を持つ会社に分かれます。当社の仕事は後者の手順を一緒に作って、自社で回せる形にして離れることです。

止まり方には型がある

まず、自社がどの止まり方をしているかを見分けます。管理画面の数字の取り方は、AI研修の効果測定。Copilotの利用状況で定着を見るに書きました。ここでは、その数字をどう読むかです。

AI導入後の止まり方を3つに分けた表。開く前で止まっている、使う人が固定した、使っているが仕事に乗っていない、のそれぞれに見分け方と最初の対策を並べた

止まり方 管理画面で見えること 現場で起きていること 最初の対策
開く前で止まっている ライセンスを持っているのに利用の記録がない人がいる(集計の条件も確かめる) ログインできない、権限がない、アプリの更新が止まっている、どこから開くか分からない 情報システムがログインや権限を確かめて直す。短い操作案内で足りることもある
使う人が固定した 集計期間ごとのアクティブユーザーが一部で、顔ぶれが変わらない 使う人は自分の仕事で使い道を見つけた。使わない人は使い道を見つけていない 使わない人の仕事を1つ特定して、置き換える
使っているが仕事に乗っていない アクティブ率は高いが、アプリ別・機能別の利用が調べものや文章の手直しに寄っている。手順に組み込まれているかは管理画面では分からない 本人に聞くと、個人の便利道具で止まり、部署の手順にはなっていない 業務を分解して、手順に組み込む

この記事で扱うのは、2番目の型です。1番目は研修の問題ではなく、設定か操作案内の問題です。3番目は、使っているので止まってはいません。次の段階の話で、業務を分解してAIに渡すに書きました。

2番目の型は、見分けやすいのに手を打ちにくい。使っている人がいるので、失敗には見えないからです。使っている人の成功例を社内に流せば広がるだろう、と考えて数か月待ち、変わらないまま次の更新時期が来ます。

なぜ3〜6か月なのか

当社の見方を書きます。導入直後に動くのは、新しい道具を触る楽しさと、会社が力を入れている空気があるからです。この2つは、どちらも長く続きません。触る楽しさは数週間で落ち着き、会社の空気は次の案件が来れば移ります。

そのあとに残るのは、自分の仕事で使い道を見つけた人だけです。見つけた人は、楽しさや空気がなくても使い続けます。毎週の報告を書く前に下書きを出させる、会議の前に資料を要約させる、客先のメールの返信案を作らせる。仕事の中に使う場面ができた人です。

見つけなかった人は、使う理由がなくなります。禁止されたわけではないので、使わないことに決めたわけでもない。ただ、開かなくなります。この記事では、この分かれ目が見える時期を3〜6か月と置きます。四半期か半期の区切りで管理画面を見る会社にとって、導入後に初めて数字と向き合う時期だからです。会社によって早くも遅くもなります。

ここで大事なのは、止まった人が怠けたと決めつけないことです。当社が最初に疑うのは、最初の研修で、その人の仕事での使い道が示されなかったことです。操作でつまずいている人や、使う必要を感じていない人も混ざるので、次の節で聞き分けます。

止まっている人の3つの理由

止まった人に、なぜ使っていないかを聞くとき、当社は3つの理由から聞き始めます。当社の研修と、その後のフォローの場で使ってきた分け方です。3つで全部を説明できるわけではないので、当てはまらない理由が出たら、それもそのまま記録します。

止まっている人の3つの理由。自分の仕事に置き換えられない、困っていない、難しいと思っている、のそれぞれについて、本人の言葉の例と聞き方を示した3枚の札

1つ目。自分の仕事に置き換えられない。 研修では、文章の要約や翻訳やメールの下書きを見た。便利だと思った。でも、自分の仕事のどこで使うかが思いつかない。この人は、AIが何をできるかは知っています。知らないのは、自分の仕事の中のどの作業がAIに渡せる形をしているかです。経理の月次の数字合わせ、製造の日報の転記、営業の見積もりの前の仕様の整理。作業の名前まで下りないと、置き換えは起きません。

2つ目。困っていない。 今のやり方で仕事は回っている。AIを使うと、頼み方を考える手間が増えるだけに見える。この人に、AIは便利だと繰り返しても動きません。動くのは、今のやり方の中にある面倒が、AIで消える瞬間を見たときです。たとえば、毎月同じ形式で作る報告の、数字を貼り付けたあとのコメント書き。そこだけ下書きを出させて、自分で直す。手間が減ったと本人が感じれば、使い道が1つできます。

3つ目。難しいと思っている。 研修で一度うまくいかなかった。頼んだ結果が的外れで、自分には向いていないと決めた。この人は、使い方が難しいのではなく、最初の体験が悪かった。頼み方を1つだけ、自分の仕事の題材で成功させると、認識が変わります。

3つは、本人の言葉で聞き分けます。何に使えばいいか分からない、は1つ目。今のままで困っていない、は2つ目。やってみたけど使えなかった、は3つ目。聞くときは、理由を責めない形にします。使っていない理由を聞かせてください、ではなく、研修のあとで一度でも試した作業はありますか、と聞きます。試していなければ、試さなかった理由を、試して止めたなら、止めた理由を続けて聞きます。手間に見合わなかった、時間がなかった、社内のルールで迷った、のような答えは、3つの外側に書き足します。

全社一律の研修をもう一度やらない理由

止まった会社から、研修をもう一度お願いしたい、という相談を受けることがあります。当社は、同じ研修をもう一度することはお勧めしていません。理由を3つ書きます。

1つ目。使い方は一度聞いています。 止まった人が知らないのは使い方ではなく、自分の仕事での使い道です。同じ内容を聞いても、同じ場所で止まります。

2つ目。使っている人の時間を奪います。 全社一律にすると、すでに使っている人も座らされます。その人たちには、同じ内容を聞き直すより、自分の使い方を隣の人に見せる役を頼むほうが、本人にも会社にも実りがあると当社は考えています。

3つ目。職種が混ざると、題材が誰のものでもなくなりやすい。 経理と製造と営業を同じ部屋に入れると、題材は全員に当てはまる文章の要約や翻訳に寄ります。職種別の演習を混成の場で組むこともできますが、それなら最初から職種で分けたほうが題材を深くできます。

当社の研修は、職種ごとに分けて、その職種の文書とデータで演習します。最初からそう設計している理由が、この止まり方にあります。全社一律で入れて止まった会社に当社が入るときも、全員を集め直すことはしません。止まっている人の中から、職種を1つ選びます。

当社が最初にすること。2週間の進め方

ここからが本題です。止まった会社に当社が入ったとき、最初の2週間で何をするか。

最初の2週間の進め方。経営が職種を1つ選び、情報システムが数字を出し、現場が仕事を1つ特定し、2週間後に3者で数字と感想を見る、を3つのレーンで示した図

1. 職種を1つ選ぶ。経営の仕事です。 止まっている人が多く、かつ、その仕事が変わると会社が助かる職種を1つ選びます。全部を一度に動かそうとしないのが、最初の決めごとです。選ぶ基準は、人数ではなく、その職種の仕事に、繰り返しがあって、文書かデータで動いている作業があるかです。経理、総務、営業事務、品質保証、設計の文書管理。こうした職種では、該当する作業を探しやすい。

2. 使っている人と止まっている人を、数字で分ける。情報システムの仕事です。 選んだ職種の中で、管理画面の直近の集計期間(Copilotの利用状況レポートなら過去28日などの期間を選べます)に使った人と使っていない人の数を出します。個人名は、ここでは使いません。何人が使い、何人が止まっているか。止まっている人の中に、開く前で止まっている人が混ざっていないか。この切り分けだけです。数字は、評価ではなく、どの職種に聞きに行くかを決めるために使います。誰に聞くかは、その職種の責任者に、話を聞かせてくれる人を数人募ってもらいます。

3. 止まっている人に、仕事を1つ聞く。現場の仕事です。 募った数人に、先の3つの理由を聞き分ける質問をします。そのうえで、同じ形で繰り返している作業を1つ挙げてもらいます。報告、見比べ、転記、下書き、集計、どれでも構いません。2週間で確かめるので、その間に2回以上起きる作業を選びます。月に1回の作業なら、次の実施日に合わせて確かめる日を決めます。ここで出てきた作業が、2週間の題材です。研修の題材を当社が用意するのではなく、本人の作業を題材にします。

4. その作業で、1つだけ成功させる。現場と当社の仕事です。 挙がった作業を、作業の手順に割ります。読む、比べる、書く、送る、のどこにAIを入れるかを決めて、本人の実物でやってみます。全部を自動にはしません。1か所だけ、本人が手間が減ったと感じる所を作ります。ここで使っている人に隣に座ってもらうと、進みが早くなります。使っている人は、同じ職種の同じ道具で、すでに使う場面を見つけているからです。

5. 2週間後に、3者で数字と感想を見る。 管理画面の数字が動いたか、本人が続けているか、続けていないなら何が邪魔か。経営、情報システム、現場の3者で、同じ数字を見ます。動いた作業は、その職種の手順として残します。動かなかった作業は、理由を3つの型に戻して、別の作業を選び直します。

2週間で会社全体は変わりません。確かめるのは、1つの職種の1つの作業で、AIが役に立つかと、続けられる条件です。それでいいのです。動いても動かなくても、手順と結果が会社に残ります。2回目は別の職種で、どこまで自社だけで進められるかを、1回目の結果から判断します。

題材を、自分の仕事に近づける4段

4の段階で、題材の選び方を間違えると、2週間が無駄になります。題材がどのくらい本人の仕事に近いかを、4段で考えます。

研修や演習の題材を本人の仕事に近づける4段の図。全社共通の文書、職種の文書、自分の業務の文書、自分が今週やる案件、の順に上がる

1段目。全社共通の文書。 社内規程の要約、ニュース記事の翻訳、一般的なメールの下書き。誰にでも当てはまるので、誰の仕事でもありません。職種が混ざる全社研修では、題材はここに置かれます。

2段目。職種の文書。 経理なら月次の報告書の型、営業なら見積もりの依頼メール、製造なら日報。その職種の人には自分の仕事に見えます。職種別の研修の題材はここに置きます。

3段目。自分の業務の文書。 本人が担当している、実際の報告書や、実際の取引先とのやり取り。守秘の範囲を決めたうえで、本人の実物を使います。

4段目。自分が今週やる案件。 来週の会議の資料、今月の締めの数字合わせ。やらなければならない仕事そのものを題材にします。ここまで来ると、演習と仕事の区別がなくなります。

止まった人を動かすのは、3段目か4段目です。1段目で止まった人に、もう一度1段目の題材を見せても動きません。2週間の進め方の3と4で、本人の作業を聞いて、本人の実物でやるのは、この段を上げるためです。

当社の職種別の研修は、2段目の題材から入ります。研修の中では、職種に合った文書で型を練習し、終わりまでに受講者が自分の業務のどの作業に当てはめるかを言葉にするところまで上げます。3段目と4段目は、研修のあとのフォローや相談の場で、本人の実物を使って進めます。研修の中身の全部は書けませんが、設計の考え方はこの階段です。

使っている人を、教える役にする

2週間の中で、もう1つ決めることがあります。使っている人の扱いです。

止まった会社では、使っている人が黙って使っていることがあります。社内で広める役を頼まれていないし、頼まれても自分の仕事があります。この人たちに、教える役を正式に頼みます。肩書きは何でも構いません。大事なのは、3つです。

  • 本人の了解を取り、上司が時間を認めること。 週に1時間でよいので、隣の人に見せる時間を、仕事の一部として認めます。善意に頼ると続きません
  • 教える内容を、職種の中に限ること。 全社向けの講師を頼むと、1段目の題材に戻ります。同じ職種の、同じ道具の、同じ作業の見せ方だけを頼みます
  • 見せたことを、残す場所を決めること。 口頭で見せて終わると、その人が異動したら消えます。頼み方の文をプロンプトの共有の仕組みに置くか、手順書に1行足すか。残す場所の選び方はCopilotが組織のプロンプトを提案。研修のプロンプト集の保存先に書きました

使っている人に教える役を頼むと、その人の使い方も整理されます。人に見せるために、自分がなぜそう頼んでいるかを言葉にするからです。この言葉が、職種の手順の種になります。

注意点

管理画面の数字を、個人の評価に使わないでください。 2週間の進め方の2で、使っている人と止まっている人を分けますが、分けるのはどの職種に聞きに行くかを決めるためです。使っていない人の名前を会議で読み上げるような使い方をすると、業務の効果より回数を増やすことが目的になるおそれがあり、数字が実態を映さなくなります。

止まっている人を、全員同じ理由だと決めないでください。 同じ職種でも、3つの理由は混ざります。1人目に聞いた理由で全体の対策を決めると、残りの2つの理由の人は動きません。数人に聞いて、理由の分布を見てから決めます。

2週間で動かなかったとき、本人のせいにしないでください。 本人の意欲を疑う前に、題材の段が低かったか、作業の割り方が粗かったか、ログインや権限の問題が残っていたか、の3つを先に疑います。

使っている人の使い方を、そのまま全員に配らないでください。 使っている人の頼み方は、その人の仕事と癖に合わせて育っています。別の人に渡すときは、作業の手順に戻して、どこでAIを使っているかを分かる形にしてから渡します。

道具を替える前に、止まった理由を分けてください。 CopilotかGeminiか、どちらのほうが定着するか、という相談を受けることがあります。道具の変更を決める前に、業務との合い方、操作上の問題、社内のルール、題材の選び方を分けて確かめます。題材の段が低いままなら、道具を替えても同じ場所で止まる可能性があります。

KOIYALの見解

AI導入が止まった会社に当社が入るとき、最初にするのは、研修をもう一度することではなく、止まっている人の仕事を1つ特定することです。使い方の説明は、最初の研修で一度届いています。届きにくいのは、その人の仕事のどこで使うかです。それは、全社向けの資料には書けません。本人の作業を聞いて、本人の実物でやってみて、初めて分かります。

当社がこの手順を2週間に区切るのは、会社に残すためです。2週間で1つの職種の1つの作業が動けば、同じ手順を別の職種で、自社だけで回せます。職種を選ぶのは経営、数字を出すのは情報システム、作業を挙げるのは現場、教えるのは使っている人。当社がいなくても回る配役にしておくことが、インハウス経営に向かう会社への、当社の関わり方です。

止まった会社は、失敗した会社ではありません。使う人が一部いるなら、その人の用途と効果を確かめるところから始められます。他の人の仕事にも役立つかは、仕事の中身に合わせて確かめます。見つかった使う場面を、まだ見つけていない人の仕事に移せるかを試す。それだけのことに、2週間かけます。

次の行動

  1. 管理画面で、直近の集計期間に使った人の数と、ライセンスを配った人の数を書き出す。3つの止まり方のどれに近いかを決める
  2. 止まっている人が多い職種を1つ選び、その職種の人3人に、研修のあとで一度でも試した作業はあるかを聞く
  3. 3人の答えを、置き換えられない、困っていない、難しいと思っている、の3つに分けて1行ずつ書く

3行書けたら、それを持って相談に来てください。AI・DXコンサルティングでは、この3行から最初の2週間の進め方を一緒に組みます。職種を選ぶところまで決まっている会社には、その職種の文書で演習する研修から入る形もあります。お問い合わせの本文に3行を書いていただければ、初回の前に当社で止まり方の型を仮置きします。

参考