たとえば、こういう場面です。AIの請求書が、思ったより大きかった。誰が何に使ったのかを聞いても、すぐには分からない。止めるべきか、増やすべきかも決められない。使った分だけ課金される機能を使い始めた会社が、導入の次に当たる壁です。

2026年9月に、この壁について2つの発表が重なりました。1つは、アクセンチュアが9月10日に出した調査報告「The CIO's guide to AI tokenomics」です。年商10億ドル超の大企業の話ですが、3社に1社が年間のトークン予算を年度の途中で使い切っていました。もう1つは、Microsoftが9月25日と30日に出した、Agent 365のコスト管理の拡張です。グループごとに使えるモデルと上限を決め、使った分を人・グループ・エージェント別に見る仕組みが、Microsoft 365の管理センターに整いつつあります。

この記事は、この2つを、従業員が数十人から百人台の会社の目で読みます。読者は、AIの費用を承認する経営者と、設定を任される情報システムの担当者です。先に結論を書きます。

  1. 使った分だけ課金される機能の費用は、席数のライセンスと違って、人数では見積もれません。 誰がいくら使ってよいかを決めないまま配ると、請求書が先に来ます。大企業の調査が示す形は、従量課金を使う中小企業にも起こりえます
  2. 管理の道具は整いつつあります。決まっていないのは、自社で誰が見るかです。 Microsoftのコスト管理は、上限を決める人、設定する人、用途を書く人がいる前提で作られています。この3つの役を決めるのは、道具ではなく会社です
  3. 最初から締めすぎないでください。 当社の立場は、使い倒してから節約を考える、です。上限は事故を防ぐためのもので、使わせないためのものではありません。節約の型は、制限に当たってから役に立ちます

インハウス経営(AIを活用し、自社で業務を改善し、自社で仕組みをつくる経営)では、AIの費用は外注費ではなく、自社の道具の運転費になります。運転費を自社で見られる会社は、使い方も自社で決められます。確認日は2026年10月13日です。提供段階は早く変わるので、Microsoftの機能は発表時点の記述として、確認日を添えて書きます。

アクセンチュアの調査が示したこと

まず、調査の中身です。「The CIO's guide to AI tokenomics」は、2026年6月から7月にかけて、年商10億ドル超の企業の上級役員750人に17か国で調査し、Fortune 500の技術・財務の責任者15人にインタビューしたものです。報告ページで確認できた数字を並べます。

アクセンチュアの調査の主な数字。年間のトークン予算を年度途中で使い切った企業が3社に1社、金額で確かめられる成果に結びつく支出が5分の1未満、部門への費用の付け替えをしている企業が7%、最上位モデルが要る作業が約10%、必要以上に高いモデルに回っている要求が54%

  • 3社に1社が、年間のトークン予算を年度の途中で使い切っていた
  • 支出のうち、金額で確かめられる成果に結びついているのは5分の1未満。残りは、生産的だと会社が信じているが証明できない所にある、と報告は書いています
  • 調査対象の企業が去年トークンに使ったのは合計で約25億ドル。今後24か月で消費量は78%増え、単価は19%下がる見込みで、何もしなければ支出は約36億ドルに近づく
  • 使った部門に費用を付け替える仕組みを持つ企業は7%
  • 分析した9,000超の職務作業のうち、最上位のモデルが要るのは約10%。一方で、要求の54%は必要以上に高いモデルに回っている
  • 自社の最大のAI用途について、成果1件あたりの費用を計算できる企業は35%

報告は、対策を5つのルールとしてまとめています。当社の訳で書くと、作業ごとの見える化、使った部門が費用を持つこと、作業に合うモデルへの振り分け、本番に乗せる前の価値の説明、組織全体のAIの技能、の5つです。

ここで注意したいのは、これが大企業の調査だということです。年商10億ドル超の会社の数字を、そのまま中小企業に当てはめることはできません。当社がこの調査から持ち帰るのは、数字ではなく形です。使った分だけ増える費用を、誰も見ていない。見ていないので、増やすべきか止めるべきかも決められない。従量課金の機能を使い始めた中小企業でも、用途と費用を見る担当を決めていなければ、同じ形になりえます。

席数の費用と、使った分の費用は別物

なぜ大企業でも予算を使い切るのか。費用の種類が変わったからです。

Microsoft 365やGoogle Workspaceのライセンスは、席数の費用です。人数を決めれば、月の金額が決まります。経理は人数で予算を組めるし、使わなかった席も金額は同じなので、使いすぎる心配がありません。

従量課金の機能では、トークンやクレジットといった消費量に応じて費用が変わります。同じ1人でも、何を頼むか、どのモデルを使うか、1日に何回動かすかで金額が変わります。エージェントに仕事を任せると、人が1回頼んだつもりでも、裏で何十回もモデルが動きます。人数で予算を組んでも、金額は決まりません。

調査は、予算を使い切った企業の予算の組み方までは示していません。ただ、従量課金の予算は人数だけでは見積もれず、利用量と用途を見る必要がある、というのが当社の読みです。成果に結びつく支出が5分の1未満という数字も、席数の費用では要らなかった用途ごとの記録が、従量課金では要る、ということを示しています。

中小企業にとって、ここが分かれ目です。CopilotやGeminiの席数のライセンスに加えて、Copilot Chatのエージェントのように従量課金の範囲はすでにあり、Microsoftは2026年9月25日の発表で、任せる仕事を動かすCoworkやCode、Autopilotも使った分の課金に置いています。席数の外の、使った分の費用が広がる。この時期に、自社が契約している従量課金の範囲を確かめ、見る人を決めておく必要があります。

MicrosoftのFinOps for AI。何ができるようになったか

Microsoftが用意した道具を見ます。2026年9月25日の「New FinOps for AI capabilities」と、9月30日の「What's new in Agent 365 - September 2026」の2本のブログを確認日2026年10月13日に読みました。

MicrosoftのAgent 365のコスト管理で、2026年9月の発表時点にできることと、提供の段階を並べた表。対象の機能、支出ポリシー、モデルの系統の制限、使った分の内訳、しきい値の通知

できること 発表の記述(2026年9月25日・30日) 提供の段階(発表時点)
対象の機能 CoworkとWork IQのAPIは6月に一般提供。9月にCodeとCopilot Managed Runtimeが加わった。Copilot Studioで作ったエージェントは10月から対応予定 CodeとManaged Runtimeは対応済みと記述。Copilot Studioは予定
支出ポリシー 使った分の課金はデフォルトで無効。管理者がポリシーを作って上限を決めると使えるようになる。テナント・グループ・ユーザーの単位で、グループの中でユーザーごとの上限も置ける 記述あり
モデルの系統の制限 グループごとに使えるモデルの系統を決める。Coworkで自動選択されるモデルの範囲にも適用される Coworkから順次。他の機能は今後
使った分の内訳 ユーザー、グループ、機能、ポリシー、支払い方法の別に見られる。コスト管理のダッシュボードに合計と上位の操作が出る 記述あり
しきい値の通知 支出が決めた水準に達したら通知を設定できる。ユーザーからクレジットの追加を申請する導線もある 記述あり
価値との対応 Insightsの消費ダッシュボードで、Coworkの使用を作業の分類ごとに価値と並べる 記述あり

ブログには、コスト管理はMicrosoftのクラウドの契約に含まれる、と書かれています。コスト管理そのものに追加の費用は要らない、という記述です。

Agent 365のブログには、2026年5月の提供開始から、数万の組織で約5,000万のエージェントが登録された、という数字もありました。人の数とは別に、エージェントの数と費用を数える前提で管理の機能が増えている、と当社は受け取っています。

管理センターの既存の報告書

9月の発表より前からある報告書も1つ確認しました。Microsoft Learnの「Microsoft Copilot Credits Report」のページ(ms.date 2026年4月3日・2026年8月18日更新)です。これは、Copilotのライセンスを持たないユーザーがCopilot Chatの中で対象のエージェントを従量課金で使った分を見る報告書で、Microsoft 365管理センターのレポート、使用状況、Microsoft Copilot、クレジットの順にたどると書かれています。見られるのは、使ったクレジットの合計、日ごとの推移、ユーザー別、エージェント別、課金ポリシー別、ユーザーとエージェントの組み合わせ別の数字です。

同じページには、30日で2,000クレジットを超えたユーザーがいると通知が出る、という記述もあります。デフォルトではユーザー名も課金ポリシーのIDも伏せられていて、表示に切り替えるには設定の変更が要ります。このデフォルトの伏せ字は、研修の効果測定の記事で書いた利用状況の報告書と同じ考え方です。

この報告書と、9月に発表されたAgent 365のコスト管理は、対象と画面が別です。9月の発表で加わった支出ポリシーの画面の名称と手順は、確認日の時点で当社のテナントでは確かめられていません。自社のテナントで使うときは、管理センターの最新の表示を見てください。

道具は揃った。決まっていないのは誰が見るか

ここからが、この記事の中心です。Microsoftの仕組みを見ると、3つの役がいる前提で作られていると読めます。

  • 上限を決める人。 支出ポリシーには、月にいくらまで、という数字が要ります。この数字は、情報システムには決められません。会社として、AIにいくら使うか、どの部署にどれだけ配るかを決める人、つまり経営の仕事です
  • 設定して見る人。 ポリシーを作り、グループに割り当て、しきい値の通知を受け取り、月に1回、内訳を出す。情報システムの仕事です
  • 用途を書く人。 内訳に出てくるのは、誰がいくら使ったか、と、Coworkなら作業の分類ごとの推定の価値までです。自社のどの業務に使い、何が変わったかは、使った本人が補う必要があります。現場の仕事です

AIの費用を見る3つの役。経営が上限と配分を決め、情報システムがポリシーを設定して月1回内訳を出し、現場が用途を書く。4段目に、用途と費用を並べて次の配分を決める、が乗る

アクセンチュアの5つのルールを、この3つの役に当てはめると、中小企業の形になります。

作業ごとの見える化は、情報システムが管理センターの内訳を月1回出すこと。大企業のように専用の観測基盤を入れなくても、管理センターの報告書で、ユーザー別とエージェント別の数字は出ます。

使った部門が費用を持つことは、調査の原文では、利用部門に実際に負担させることまでを指しています。中小企業では、その手前の、部門別に費用が見えることから始めます。支出ポリシーをグループ単位で作り、経理のグループ、営業のグループ、と分けて上限を置けば、どの部署がいくら使ったかを部署別に集計できます。部門の予算から負担させるかどうかは、数字が見えてから別に決めます。

作業に合うモデルへの振り分けは、作業ごとにどのモデルで足りるかの基準を決め、品質と費用を確かめることです。調査では、最上位のモデルが要る作業は約10%でした。グループごとのモデルの系統の制限は、その基準を守るための補助の手段です。全員に最上位を開けるのではなく、最上位が要る作業を持つ人のグループに開けます。

本番に乗せる前の価値の説明は、エージェントを動かし始める前に、置き換える作業、今かかっている時間や費用、改善を確かめる指標を短く書くことです。業務を分解してAIに渡すに書いた分解が、ここで役に立ちます。

組織全体のAIの技能は、研修です。費用の話を研修のどこに置くかは、後の節で書きます。

月1回、3者で見る

役が決まったら、見る手順を決めます。当社が勧めるのは、月1回、30分です。

月1回の費用の見方。情報システムが内訳を出し、現場が上位の用途を1行ずつ書き、経営が増やす・続ける・止めるを決め、情報システムがポリシーを直す、を3つのレーンで示した図

1. 情報システムが、内訳を出す。 管理センターの報告書から、グループ別の合計と、上位のユーザー、上位のエージェントを書き出します。管理者がポリシーと部署の対応を確かめたうえで、会議には部署別に集計して個人名を除いた資料を出します。

2. 現場が、上位の用途を1行ずつ書く。 上位に出たエージェントや用途について、使った部署の人が、何の作業に使ったかと、何が変わったかを書きます。見積もりの前の仕様の整理に使って、着手までの時間が短くなった。問い合わせの仕分けに使って、人が見る件数が減った。作業の名前と、変わったことの1つを書きます。管理画面の分類や推定の価値は参考にしつつ、自社の業務の言葉で補うのはここです。

3. 経営が、増やす・続ける・止めるを決める。 用途と金額を並べて、3つに分けます。成果が見えていて金額が小さい用途は増やす。成果が見えている用途は続ける。用途が書けない支出は、止めるか、次の月に用途を書くことを条件に続ける。ここで初めて、使い切った、ではなく、使い方を決めた、になります。

4. 情報システムが、ポリシーを直す。 決めたとおりに、上限とモデルの系統を直します。増やす用途のグループは上限を上げ、用途が書けないグループは上限をそのままにする。1か月後に、また1に戻ります。

この4つを回すと、用途別の支出が自社で分かるようになります。調査が測った、金額で確かめられる成果までは、これだけでは届きません。成果を見るには、削減できた時間や処理した件数のような指標も記録します。用途が書けなかった支出は、未確認として残し、次の月の宿題にします。大企業のように全社の数字を精密に出す必要はなく、上位の用途から順に埋めていけば足ります。

最初から締めすぎない

ここまで管理の話を書きましたが、当社の立場を1つ加えます。最初から締めすぎないでください。

AIの費用を見る仕組みを入れると、使わせない方向に働きがちです。上限を低く置き、最上位のモデルを閉じ、用途を書かないと使えない、とすると、現場は使わなくなります。使わなければ費用はかかりませんが、成果も出ません。使う人が一部に固定して止まる会社の形は、別の記事に書きました。

当社が研修で伝えている順番は、まず使い倒す、です。トークンのことを考えずに、自分の仕事で使えるところを全部試す。制限に当たってから、節約の型を思い出す。この順番でないと、節約の型を先に教えても、何を節約すればいいかが本人に分かりません。

では、上限は何のためにあるのか。事故を防ぐためです。エージェントが止まらずに回り続けた、1人が試しに動かしたものが何十回も動いた、というときに、月の途中で請求が膨らむのを止める。支出ポリシーの上限と、しきい値の通知は、この用途に使います。使わせないための数字ではなく、想定外を止める数字として置きます。

上限の置き方の考え方を、当社の案として書きます。最初の3か月は、試す期間の予算と、会社として許容できる最大の支出を先に決め、その範囲で上限を置きます。通知は、試す期間の予算に達する所に置きます。通知が来たら、用途と増えた原因を確かめます。業務で使った結果なら止めずに続け、止まらずに回り続けたような異常な実行なら止めます。3か月分の内訳が貯まったら、用途ごとに上限を置き直す。この順番なら、使い倒す期間と、見る仕組みが両立します。

研修のどこに費用の話を置くか

アクセンチュアの5つ目のルールは、組織全体のAIの技能でした。費用の話を研修のどこに置くかは、当社も考えてきました。

当社の研修では、費用と節約の話は基本編の最後に1枚だけ置きます。理由は上に書いたとおりで、使い倒す前に節約を教えても効果がないからです。1枚の中身は、席数の費用と使った分の費用の違い、自社でいくらまで使えるか、制限に当たったときに誰に言うか、の3つです。節約の型そのものは、制限に当たった人が思い出せるように、研修のあとのフォローの場で扱います。

経営者と情報システムの担当者には、別の内容が要ります。上限をどう決めるか、内訳をどう読むか、用途を現場にどう書いてもらうか。これは全社の研修ではなく、決める人との個別の場で扱う内容です。当社のAI・DXコンサルティングでは、最初の数か月の内訳を一緒に読むところから入ります。

注意点

大企業の数字を、自社の数字として引用しないでください。 3社に1社、5分の1未満、という数字は、年商10億ドル超の企業の調査です。自社に当てはまるかどうかは、自社の内訳を3か月見てから判断します。この記事で調査を引いたのは、費用の形が変わったことを示すためで、自社の予算の根拠にするためではありません。

内訳の数字を、個人の評価に使わないでください。 上位のユーザーが出ることは、使いすぎでも、優秀でもありません。用途を聞くための手がかりです。管理センターがユーザー名をデフォルトで伏せているのは、この誤用を防ぐ設計だと当社は読んでいます。

用途が書けない支出を、すぐに止めないでください。 書けないのは、使い道がないからではなく、書く習慣がないからであることもあります。最初の月は、書くことを頼むだけにして、2か月目から条件にします。

モデルの系統の制限は、人で決めず、作業で決めてください。 役職が上の人に最上位のモデルを開ける、という決め方では、作業に合うモデルへの振り分けにはなりません。最上位が要る作業を持つ人のグループに開け、作業ごとの選び方の基準は別に決めます。

提供段階は、自社の管理センターで確かめてください。 この記事の表は、2026年9月の発表時点の記述です。Copilot Studioの対応は10月の予定と書かれており、モデルの系統の制限はCoworkから順次です。設定の画面と名称は、確認日2026年10月13日の時点で当社は実機で確かめていません。

KOIYALの見解

AIの費用の管理は、道具の整備が進んでいます。Microsoftの仕組みで、上限を決め、グループに配り、内訳を見ることは、自社で使える機能の範囲で始められます。アクセンチュアの5つのルールも、中小企業の形に直せば、管理センターの設定と月1回の会議から始められます。

決まっていないのは、自社で誰が見るかです。上限を決めるのは経営、設定して見るのは情報システム、用途を書くのは現場。この3つの役を決めずに費用の管理を始めると、情報システムが1人で上限を決め、現場は用途を聞かれず、経営は請求書だけを見ることになりかねません。それでは、増やすか止めるかを決める材料が、いつまでも揃いません。

当社は、AIの費用を、自社の道具の運転費として自社で見られる会社を増やしたいと考えています。外に管理を頼むのではなく、月1回30分の見方を社内に残す。最初の数か月は一緒に内訳を読み、自社で回る形になったら離れます。期間と中身は、利用の状況と社内の体制に合わせて相談します。使い倒す期間を守りながら、想定外だけを止める。その両立を決められるのは、道具ではなく、会社の側です。

次の行動

  1. 自社のAIの費用を、席数の費用と使った分の費用に分けて書き出す。使った分の費用に当たるものが何かを、情報システムに聞く
  2. 使った分の費用について、上限を決める人、設定して見る人、用途を書く人の3つを、名前で決める
  3. 管理センターで、直近の集計期間の上位のエージェントとグループを書き出し、上位の用途を使った部署に1行で書いてもらう

3つ書けたら、それを持って相談に来てください。AI・DXコンサルティングでは、最初の数か月の内訳を一緒に読み、上限と用途の一覧を自社で回せる形にします。お問い合わせの本文に、3つの役の名前と上位の用途を書いていただければ、初回の打ち合わせはそこから始めます。

参考