具体と抽象を行き来する力をAIで鍛える方法を解説する記事

もっと具体的に、と、で結局何が言いたいの

同じ人が、同じ週に、この2つを言われることがあります。

企画会議で説明したら、もっと具体的に言ってくれる?と返される。翌日、上司への報告を細かくしたら、で、結局何が言いたいの?と止められる。どちらも直そうとして、細かくしたり、まとめたりを行ったり来たりする。けれど手応えがない。

これは説明が下手なのではなく、話す前に抽象度を決めていないことが原因です。同じ内容でも、どの高さから話すかで、伝わる相手と伝わらない相手が変わります。高さを合わせずに話すと、細かすぎるか、ふわふわしているかのどちらかになってしまう。

そして、この高さを自由に上げ下げする力は、生成AIを使ううえでそのまま効いてきます。AIへの指示は、抽象度の指定そのものだからです。抽象度が高い頼み方をすれば、当たり障りのない一般論が返ってくる。抽象度が低すぎる頼み方をすれば、自分が思いついた範囲の外には出ません。AIを使っても大した答えが返ってこない人の多くは、指示が下手なのではなく、抽象度の上げ下げをしていません

この記事は、具体と抽象の概念解説ではありません。自分が今日やった仕事をそのまま教材にして、この力を鍛える方法の話です。

抽象化とは、まとめることではなく捨てること

先に言葉の定義を揃えます。ここがずれていると、後の練習が全部ずれます。

抽象化とは、目的に関係する特徴だけを残し、それ以外を捨てる作業です。複数のものから共通点を取り出すのが代表的なやり方になります。要約する、まとめる、と説明されることも多いのですが、この呼び方には注意が要ります。要約と呼ぶと、全部の情報が小さくなって残っている印象を与えます。残りません。捨てています。

抽象化は共通点だけを残して他を捨てる作業だと示す図

犬・猫・馬をまとめて動物と呼ぶとき、鳴き声も、足の速さも、飼いやすさも全部捨てています。捨てたからこそ、動物ということばは広い範囲に使えます。捨てるほど、使える範囲は広がります

具体化とは逆に、条件・数値・固有名詞・手順を足して、解釈の幅を狭める作業です。業務を効率化する、は何通りにも読めます。請求書の作成にかかっている月12時間を、来期末までに4時間にする、はほぼ1通りにしか読めません。足した情報の分だけ、読み手による差が縮まっています。

この2つを、階層として並べます。上に行くほど適用できる範囲が広く、情報量が少ない。下に行くほど適用できる範囲が狭く、情報量が多い。上が偉いわけでも、下が偉いわけでもありません。ここは大事な点です。抽象度が高い話をする人が賢く見えるので、上に行くほど良いと勘違いする人がいます。上に行きすぎると、誰にも反論できないかわりに、誰も動けない話になります。

具体と抽象の力とは、この階層のどこにいるかを自覚し、必要な高さまで自分で移動できる力です。

抽象的と曖昧は、別のことを指している

混同されやすい区別をひとつ。抽象的であることと、曖昧であることは違います

動物は抽象的な語ですが、曖昧ではありません。犬が含まれ、椅子が含まれないことは、たいていの文脈で一致します。範囲が広いだけで、境界はおおむね決まっています。

抽象的と曖昧の違いを対比した図

一方、なんとなくいい感じ、しっかり対応する、前向きに検討する。これらは抽象的なのではなく、曖昧です。人によって指す中身が変わります。境界がありません。

抽象度を上げるべき場面で、曖昧にしてしまう。これがよくある失敗です。上に上げたつもりで、実は輪郭をぼかしただけになっている。見分け方は、その語が指すものと指さないものを、自分が説明できるかどうかです。説明できなければ、上げたのではなくぼかしています。

具体化と詳細化は、違う作業

もうひとつ紛らわしいのが、具体化と詳細化です。この2つは一般に厳密に区別されているわけではありません。ただ、分けて考えると会議の詰まりが見えやすくなるので、この記事では次のように使い分けます。

詳細化は、同じ階層のまま説明を細かくする作業です。顧客対応を改善する、が、顧客対応を丁寧かつ迅速に全社的に改善する、になる。語数は増えていますが、明日やることは1つも決まっていません。

具体化は、抽象度を1段下げて、実行できる形にする作業です。顧客対応を改善する、を、問い合わせの初回返信を翌営業日までに出す、に変える。ここでは階層が動いています。

詳細化は同じ階層で語数が増えるだけ、具体化は1段下りて実行できる形になることを示す経路図

会議で細かい話ばかりが増えて前に進まないとき、起きているのは具体化ではなく詳細化です。情報が増えているのに決まらないときは、階層が動いていないと疑ってください

カタカナ語を使っても、抽象度は上がらない

難しい語を使うことは、抽象化ではありません

シナジー、アセット、グロース、ケイパビリティ。こうした語に置き換えると、抽象度が上がったように聞こえます。実際には、日本語を別の言語の単語に差し替えただけで、階層は1ミリも動いていない。相乗効果をシナジーと呼んでも、指している範囲は同じです。

抽象度は、語の難しさではなく、適用できる範囲で決まります。範囲が広がっていなければ、どれだけ耳慣れない語を使っても同じ階にいます。会議で難しい語が飛び交うのに議論が前に進まないとき、たいてい全員が同じ階に留まったまま、語彙だけを取り替えています。

階層を、実際の言葉で並べてみる

抽象と具体の階層は、頭で理解するより並べたほうが早いです。ある会社の営業に関する話を、5段で書いてみます。

なお、これから並べる5段は、犬と動物のような言葉の包含関係ではありません。目的から実行までをつないだ、手段と目的の連なりです。組織で階層がずれるときに問題になるのは、たいていこちらの形をしています。

言葉 主に使う人
5 顧客に選ばれ続ける会社になる 経営
4 新規は既存顧客からの紹介で取る 部門長
3 満足している顧客を見つけ、紹介を頼める関係をつくる 課長
2 納品から1か月後の面談を全件実施する チーム
1 8月納品の12件に、9月第1週までに面談日程を送る 担当者

5階だけを言われても、担当者は動けません。1階だけを言われても、状況が変わったときに応用できない。上司と部下の会話が噛み合わないとき、この表のどこかの段が抜けています。

抜けやすいのは3階です。5階の理念と2階の施策はあるのに、その間をつなぐ言葉がない、という形になっていないか確かめてください。この形だと、施策が何のためのものか誰も説明できず、そのうち形骸化します。間の階を1つ足すだけで、同じ施策の意味が変わることがあります

自分がどこで詰まっているか、3つの型で見分ける

抽象化が苦手、と一言で言っても、詰まっている場所は人によって違います。詰まりどころが違えば、やるべき練習も変わる。まず自分の型を判定してください。

判定のやり方は簡単です。直近の会議で自分が言ったことを1つ思い出して、紙に書きます。その上に1段(もっと広い言い方)、下に1段(明日やること)を書き足してみる。どちらの手が止まるかで、型が分かります。

抽象化が苦手な人の3類型を並べた図

型1:上がれない

事実は詳しく説明できるのに、一言でまとめようとすると止まる。報告が時系列になりがちで、要するに何?と聞かれると困る。会議では、細かい話に強いが、全体の方針を問われると発言が減ります。

この型の人は、捨てることに抵抗があります。どの情報も大事に見えるので、削れません。練習1(上げる)を重点的にやってください。

型2:下りられない

方針や理念は語れるのに、明日何をするかが出てこない。指示を出すと、抽象的でよく分からないと言われる。企画は通るが、実行段階で止まりがちです。

この型の人は、上の階層が居心地よく、下りると細かい判断が必要になるので避けています。練習2(下げる)を重点的にやってください。

型3:軸がずれる

上げ下げ自体はできるのに、話が噛み合わない。コストの議論をしているのに、顧客心理の話を持ち出してしまう。本人は正しいことを言っているつもりなのに、周りには脱線に見えます。

この型は、後述する正しい抽象化は目的の数だけあるの節が効きます。上げるときにどの軸で上げるかを、先に決める癖をつけてください。

日々の仕事は具体で回っているので、上げる機会はそもそも少なくなりがちです。自分がどれか分からない場合は、型1から始めて構いません。

抽象度がずれると何が起きて、どう直すか

抽象的な話に聞こえるかもしれないので、実際に起きることと、その直し方を並べます。心当たりのあるものから読んでください。

抽象度のずれで起きる6つの症状と直し方の一覧

指示が伝わらない

上司は、顧客との関係を深めてほしい、と言います。部下は、訪問回数を増やせということか、と受け取る。上司が言いたかったのは、担当者以外のキーパーソンとも会っておけ、でした。上司は上の階層で話し、部下は下の階層で受け取っています。どちらも間違っていません。階段が抜けているだけです。

直し方:間の階層を1つだけ埋めます。関係を深めると訪問回数を増やすの間に、決裁に関わる人を把握する、を挟む。全部を具体化する必要はありません。1段で足りることがほとんどです。指示を出す側は、何のためかを示す上の階層と、まず何をするかを示す下の階層を、両方言う。上だけだと動けず、下だけだと状況が変わったときに応用が利きません。

会議が終わらない

参加者が違う階層の話を同時にしているとき、会議は終わりません。ある人は、そもそもこの機能は誰のためのものか、と話す。別の人は、ボタンの色をどうするか、と話す。両方とも必要な議論ですが、同時にやると噛み合いません

上の階層の議論をしている人からは、下の議論が枝葉に見えます。下の階層にいる人から見れば、上の議論は机上の空論です。互いに相手を評価しなくなるところまでいくと、会議は感情の問題に変わります。

直し方:冒頭の1分で、今日どの高さの話をするかを宣言します。目的の話なのか、打ち手の話なのか、段取りの話なのか。途中で誰かが違う階層の話を始めたら、否定せずに預ける。それは打ち手の話なので後半に置きます、と言えば、意見を否定せずに階層を揃えられます。

報告が長くなる

起きたことを時系列で並べる報告は、必ず長くなります。具体だけを並べていて、抽象がないからです。聞き手が自分で共通点を取り出して要約しないといけません。その手間を聞き手に押しつけているので、忙しい相手ほど途中で止めます。

直し方:上に一段上げて先に言う。A社で納期の相談が2件、B社でも1件ありました。この3件はどれも、見積時に伝えた前提が現場に届いていないことが原因です、と言えば、聞き手は残りを聞く準備ができます。資料も同じで、言いたいことを1行書く、支える理由を3つに分ける、理由それぞれに事実を割り当てる。上から下へ降りる形にすると、聞き手はどこで聞くのをやめても損をしません

成功事例が横展開できない

ある部署でうまくいった取り組みを、他の部署でもやってみる。だいたい失敗します。具体のままコピーしているからです

直し方:一度上げてから下ろす。うまくいった取り組みから、なぜうまくいったのかを原理として取り出す。次に、その原理を別の部署の事情に合わせて具体化し直す。上げて下ろす往復をしないコピーは、形だけが移って中身が移りません。社内の事例共有の資料は、何をやったかの前に、なぜうまくいったのかを1行書いてから具体を書く。この順序にしておくと、読んだ側が移植できます。

成功事例を原理へ上げてから別部署の具体へ下ろす往復を示した経路図

理念が浸透しない

経営理念は、その組織で最も抽象度の高い言葉です。抽象度が高い言葉は、そのままでは誰も動けません。理念が浸透しないのは、社員の意識が低いからではなく、理念から日々の行動までの階段が用意されていないからです。

直し方:階段は、だいたい3〜4段必要になります。理念、部門の方針、今期の重点、今週やること。この間が飛んでいると、朝礼で理念を唱和しても行動は変わりません。先ほどの5段の表が、そのまま雛形として使えます。

若手が伸び悩む

伸び悩みの形のひとつに、下の階層に留まったまま経験だけが積み上がるというものがあります。目の前の作業はできる。けれど、その作業が何のためかを説明できない。この状態だと、少し条件が変わると手が止まります。

直し方:上の階層を教え込むより、本人にやったことを抽象化させるほうが効きます。今日の対応を、他の案件でも使える形で一言にすると?と聞く。答えが出なければ一緒に考える。これを繰り返すと、経験が知識に変わります。聞き方そのものは質問力の記事で詳しく扱っています。

良い抽象化かどうかを確かめる、4つの問い

練習をするなら、良し悪しを見られないと上達しません。ここでは、実務で使える確認項目を4つ挙げます。自分の抽象化にも、AIの抽象化にも、同じ4つを当ててください

点数がつく採点表ではありません。何のために抽象化したかで、通すべき項目は変わります。そのうえで、業務の改善のために上げたのなら、4つとも見る価値があります。

良い抽象化かを確かめる4つの問い

1. 目的に沿っているか。何のために抽象化したのかによって、良い答えは変わります。目的から外れた共通点は、事実として正しくても役に立ちません。

2. 元にした具体例を、自分が挙げ直せるか。抽象化は情報を捨てる作業なので、言葉だけから元の事実を復元することは、原理としてできません。だから元の事実との対応を、自分の側で持っているかを確かめます。3つ挙げられなければ、抽象化ではなく忘却です。この項目が一番よく効きます。きれいな言葉にまとめたつもりで、実は元の情報を手放していた、という状態を見つけられます。

3. 想定した範囲の別の事例に使えるか。その言葉を、別の案件や別の部署に持っていって使えるかを確かめます。使えないなら、まだ十分に上がっていません。

ここで注意がひとつ。使える範囲は、広ければ広いほどよいわけではありません。想定していなかった相手にまで当てはまってしまうなら、それは上げすぎです。目安は、自分が最初に決めた適用範囲を超えているかどうかになります。

4. 行動に落ちるか。その言葉から、明日やることが決まるかを見ます。決まらないなら、上げすぎているか、抽象ではなく曖昧になっています。

3と4は、互いを縛る関係にあります。上げすぎると4を満たさなくなり、上げ足りないと3を満たさない。ちょうどいい高さは、この2つの間にあります。

具体化のほうは、もっと単純です。その文を読んだ人の間で、やることの解釈が割れないか。これだけ見れば足ります。割れるなら、まだ具体化が足りていません。

正しい抽象化は、目的の数だけある

ここは、多くの解説が触れない部分です。同じ事実から取り出せる抽象化は、1つではありません

例を出します。今月、納期遅れが3件あった。この事実から取り出せる共通点は、目的によって変わります。

何を決めたいか 取り出される見方 確かめるべきこと
利益を守りたい 見積時の工数見積が甘い 過去の見積と実績工数の差を並べる
顧客の信頼を守りたい 進捗の共有が遅く、顧客が不安になっている 遅れた3件で、いつ何を伝えていたかを追う
組織を強くしたい 情報が担当者に集中し、代替が利かない 担当者以外が状況を答えられるかを聞く

3つとも、目的別に立てられる見方です。ただし、ここで気をつけてください。元の事実は納期遅れが3件あった、それだけです。この3つはまだ確かめられていない仮の説明であって、事実ではありません。どれが実際に起きていることかは、右端の欄のように追加で確かめないと分かりません。

どれが本質か。この問いに一つの答えはありません。あるのは、いま何を決めたいか、だけです。そして選んだ見方が当たっているかは、別途確かめる必要があります。確かめ方は仮説検証の記事で扱っています。

ここがAIを使うときに効いてきます。本質は何ですか、と聞くと、AIは無難な1案を正解のような顔で返してきます。文脈が足りない開いた問いでは、一般的な切り口に寄りやすいからです。返ってきた1案が自社にとって重要な軸かどうかは、別の話になります。

だから頼み方を変えます。

この3件の納期遅れについて、コストの観点・顧客の観点・組織の観点で、それぞれ抽象化してください。重なる場合は、無理に分けずに、重なっていると書いてください。それぞれについて、確かめるにはどのデータを見ればよいかも書いてください。

軸を指定して3回抽象化させると、選択肢が出ます。1つだけ出させると、選択肢ではなく結論に見えてしまう。この違いは大きいです。

既存のトレーニングが続かない理由

具体と抽象を鍛える方法は、すでにたくさん世の中にあります。共通点を探す。グループ分けする。要点をまとめる。法則を見つける。どれも間違っていません。問題は、続かないことです。

続かない理由は、大きく2つあります。

従来のトレーニングとAIを使う練習の違い

1つ目は、題材が他人の問題だからです。練習問題として出されるのは、カメレオンとSNSの共通点は何か、といった課題です。解けば頭の体操にはなる。けれど、それを解いたところで、明日の会議で自分の企画をどう説明するかは変わりません。自分の仕事と接続していない練習は、面白いか面白くないかで続くかどうかが決まってしまいます

2つ目は、正解かどうかが分からないからです。自分で抽象化してみたとして、それが良い抽象化なのか、ずれているのかを判定してくれる相手がいません。模範解答が付いていても、なぜ自分の答えでは駄目なのかは書いてない。手応えのないまま続けるのは、誰にとっても難しいことです。

生成AIが変えたのは、この2つです。題材を自分の実務にしたまま、何度でも相手をしてもらえるようになりました。今日の議事録、書きかけの企画書、失注した案件のメモ。どれも練習問題になります。しかも、自分の答えと突き合わせる相手がいる。

ただし、ここに落とし穴があります。AIに抽象化させて、その答えを読むだけでは練習になりません。それは他人の答案を読んでいるのと同じです。次に紹介する練習が全部、自分で先にやる工程を含んでいるのは、そのためです。

AIで鍛える3つの練習

どれも1回3〜5分で、題材は今日の自分の仕事を使います。必ず、自分で先にやってからAIに聞いてください。この順番が逆になると、練習ではなく答え合わせになります。

AIで具体と抽象を鍛える3つの練習

練習1:上げる(抽象化)

今週やった仕事を、思いつくまま10個書き出します。粒度はバラバラで構いません。見積書を3件作った、部下と面談した、展示会の申込をした、といった具合です。

書き出したら、まず自分でグループ分けします。3〜4グループにして、それぞれに名前をつける。この名前をつけるところが抽象化です。時間をかけず、思いついた名前で構いません。

そのあと、同じリストをAIに渡します。

以下は私が今週やった仕事です。共通点でグループに分けて、各グループに名前をつけてください。名前は3つ以上の候補を出し、それぞれ何を共通点として取り出して、何を捨てたかも書いてください。

見るべきは、AIの答えそのものではありません。自分のグループ分けとの違いです。ここで比べるのは、グループの数ではありません。数が違っても、分ける軸が違えばどちらも成り立ちます。見るのは、どの軸で分けたか、各グループに何を入れて何を外したかの2点です。自分が仕事の種類で分けていて、AIが相手先で分けていたなら、自分が持っていない軸が1つ見つかったことになります。

そして、何を捨てたかを書かせるのが肝です。抽象化は捨てる作業なので、何を捨てたかが分かると、その抽象化が使える範囲が分かります

練習2:下げる(具体化)

自分が今週書いた文章から、抽象的な語を5つ抜き出します。強化する、最適化する、見直す。あるいは、共有する、連携する、体制を整える。この手の語です。企画書やメールから探すと、必ず見つかります。

抜き出したら、自分で1つずつ具体化してみる。誰が、何を、いつまでに、どうなったら達成なのか。ここで、すらすら書けるものと、手が止まるものが分かれます。手が止まった語が、自分が実は分かっていない語です

そのあと、AIに詰めさせます。

次の言葉について、意味が確定するまで質問してください。私が答えられなかったら、答えられないと言います。曖昧なまま先に進まないでください。

質問を投げ返してもらう形にするのが重要です。AIに具体化させると、それらしい数字と手順が返ってきます。それは自社の実態ではなく、平均的な例です。自分が答えるかたちにしないと、自分の中身は出てきません。

練習3:往復する(アナロジー)

上げ下げが別々にできるようになったら、往復です。往復の練習として有効なのがアナロジーです。一度上まで上げて、別の分野に下ろす。この動きになります。表面が似ているものを探すのではなく、関係の構造が同じものを探すのが要点です。

題材は、自分が今困っていることにしてください。

今、次の問題で困っています。この問題の構造を一段抽象化して、まったく違う業界や場面で同じ構造になっている例を5つ挙げてください。似ている点だけでなく、似ていない点も書いてください。

出てきた5つのうち、自分が遠いと感じたものを1つ選びます。そして、なぜそれが同じ構造なのかと、どこが違うのかを、自分の言葉で3行書く。書けなければ、その抽象化は自分のものになっていません。構造の対応と相違点の両方を説明できたものだけを採用してください

遠いものを選ぶのは、近いものだと抽象化しなくても説明できてしまうからです。飲食店の話を小売店に移すのは簡単です。飲食店の話を病院の待ち時間に移そうとすると、一度上まで上げないと移りません。上げないと移せない距離を使うのが、往復の練習になります

慣れないうちは、近い例から始めて距離を広げるほうが、対応づけを間違えにくくなります。

1つの題材を、最初から最後まで往復してみる

練習を個別に紹介したので、通しでやるとどうなるかを1本書きます。題材は、今期に見積提出後の失注が3件あった、とします。

失注3件を題材に具体と抽象を往復する6手順

手順1:事実だけを並べる。3件それぞれについて、提出日・提出先・金額を書く。次に、断られた日と、先方が言った言葉をそのまま書きます。解釈を混ぜないのがコツです。高いと思われたようだ、は解釈です。価格が想定より高いと言われた、が事実になります。

手順2:自分で上げる。3件の共通点を、自分で1行にします。ここでは、価格で負けている、と書いたとしましょう。

手順3:軸を変えて上げ直す。AIに、コスト・顧客・組織の3つの観点で別々に抽象化させます。顧客の観点で、価格を判断する前の段階で、価値が伝わっていない、が出てきたとします。

手順4:4つの基準で採点する。価格で負けている、は元の3件に戻れるか。戻れます。別の案件に適用できるか。できます。行動に落ちるか。値下げする、しか出てきません。一方、価値が伝わっていない、は行動に落ちるか。提案書の構成を変える、初回訪問で聞く項目を変える、事例を用意する、と複数出ます。採点の結果、後者を採用します

手順5:下ろす。価値が伝わっていない、を明日やることに変換します。次の見積提出前に、提案書の冒頭に、先方の言葉で課題を書いた1ページを足す。ここまで下ろせば実行できます。

手順6:仮説として扱う。ここが最後の工程です。抽象化して見つけた共通点は、まだ事実ではありません。3件から取り出した仮の答えです。実際に効くかどうかは、次の案件で試してみないと分かりません。ここから先の進め方は仮説検証の記事で扱っています。

この6手を、1つの題材で最後まで通すと、練習の意味が変わります。バラバラに練習していると技になりませんが、通すと自分の仕事が動きます。

AIへの指示そのものが、抽象度の操作になっている

ここまでは鍛え方の話でした。もうひとつ、すぐ効く使い方があります。具体と抽象の階層を意識すると、AIから返ってくる答えの質が変わります

AIに頼むときの抽象度には、だいたい3段あります。

頼み方の高さ 返ってくるもの
高い 営業を改善する方法を教えて 一般論。どの会社にも当てはまるが、どの会社も動けない
中くらい 訪問件数は多いのに受注率が低い場合、原因として何が考えられるか 検討に使える切り口。ここから選べる
低い 次のメール文面を、件名だけ3案書き直して 狭いが、そのまま使える

多くの人は、高いところで頼んで、返ってきた一般論を見てAIは使えないと判断します。あるいは低いところだけで頼んで、自分が思いついた作業をAIに代行させるだけになる。どちらも、AIの一番おいしい部分を使っていません。

使いこなしている人がやっているのは、高いところから始めて、選んで、下ろす往復です。まず中くらいの高さで切り口を10個出させる。自分の現場に合いそうな3つを選ぶ。選んだものだけを具体化させる。この3手で、一般論でも作業代行でもない答えが出ます。

そして、この往復ができるかどうかは、AIの操作スキルではなく、返ってきた答えがどの階層の答えかを判定できるかにかかっています。判定できないと、一般論を具体的な答えだと思って持ち帰りかねません。前提の置き方そのものを疑う話はAIで思考法を鍛える記事でも扱っています。

AIに渡す前と、返ってきた後に確認すること

自分の実務を教材にする以上、避けて通れない論点が2つあります。渡す前の情報管理と、返ってきた後の中身の検分です。

AIに渡す前と返ってきた後に確認することの一覧

渡す前:実務の情報をそのまま入れない

練習の題材は自分の仕事ですが、顧客名・個人名・契約金額・未公開の数字を、そのまま入力する必要はありません

置き換えれば済みます。A社、担当者B、数百万円規模、8月納品。これで構造を保ったまま、直接の識別子を外せます。むしろ固有名詞を外したほうが、共通点は見えやすくなります。抽象化の練習としては、置き換えたほうが都合がいい。

ただし、名前を仮名にしたから特定されない、とまでは言えません。金額・時期・案件の内容が揃えば、業界内では絞り込めてしまうことがあります。練習に要らない情報は、置き換えるのではなく削ってください。

そのうえで、社内に生成AIの利用ルールがあるなら、それが優先です。無い場合は、社外に出せない情報は入れない、を最低線にしてください。入力した内容の扱いは、サービスや契約プランによって条件が異なります。自社が使っている環境の条件を確認してから運用を決めるのが安全です。

返ってきた後:捨てられたものを確認する

文脈を渡さずに抽象化を頼むと、答えは一般的なほうへ寄ります

抽象化は共通点を取り出して、それ以外を捨てる作業でした。何を共通点と見なすかは、何を知っているかで決まります。渡していない情報について、AIが知っているのは世の中に大量にある一般的なパターンです。自社の現場に固有の要素は、渡さなければ共通点の候補にすら入りません

これが問題になるのは、捨てられた部分に競争優位があるときです。他社と違うやり方をしているから勝てている部分は、一般的なパターンから外れています。文脈を渡さずに抽象化させると、そこが消えて、どの会社にも当てはまる話になる。

対策は2つあります。残したい要素を先に伝えること。当社は納期の短さで選ばれているので、その要素は落とさずに抽象化してください、と書けば、扱いは変わります。もう1つは、返ってきた後に次を確認することです。

  • 捨てられたものの中に、自社の勝ち筋が入っていないか
  • 出てきた抽象語が、他社の資料に貼り付けてもそのまま通用しないか。通用するなら、抽象化しすぎている
  • 自分が現場で感じている違和感が、抽象化の過程で消えていないか

もうひとつ。AIに具体化させたときに出てくる数字は、そのままでは根拠になりません。例として置かれた数、推測、渡した情報からの計算、検索結果、いずれの場合もあります。出典か計算の根拠を示せない数字は、資料に載せないでください

任せない領域:どこまで上げるかを決めること

AIは、指定した粒度に沿う傾向はありますが、そのとおりに止まる保証はありません。一段上げてくださいと言って、二段上がって返ってくることも、ほとんど動かずに返ってくることもあります。

どこまで上げるかは、何を決めたいかで変わります。何を決めたいかを知っているのは、その場にいる人だけです。だから、上げ幅を決めることと、返ってきた答えが指定した高さかを確かめることは、人の側に残ります。ここを任せると、返ってきた答えの高さが毎回変わり、判断の基準がぶれます。

続けるための作り方

練習は、続かなければ意味がありません。条件は3つです。

題材を探さない。今日やった仕事、今日書いた文章、今日困ったことを使う。題材探しに時間がかかると、それだけで続かなくなります。

1日1回、3分で切る。長くやると疲れて翌日やりません。3分で切ると、物足りないくらいで終わるので、翌日も手が伸びます。

ずれを記録する。自分の抽象化とAIの抽象化がずれたところだけ、1行メモする。1週間分たまると、自分の癖が見えます。まとめすぎる癖なのか、細かく分けすぎる癖なのか。癖が分かると、直す場所が1つに定まります

上達したかどうかの目安を2つ挙げます。説明する前に、今から何階の話をするかを自分で決められるようになったら、身についています。それまでは、話し始めてから高さが決まっている状態です。もう1つは、自分の抽象化から元の具体例を3つ挙げ直せる率。採点基準の2番目です。これが安定して挙がるようになれば、忘却ではなく抽象化ができています。

チームで揃えないと、個人技で終わる

個人でできるようになっても、周りが揃っていないと噛み合いません。組織で使うなら、揃えるのは3つで足ります。

会議の階層宣言。冒頭1分で今日の高さを決める。議事録にも、どの高さの議論だったかを1行書く。

指示の型。目的と最初の一歩を両方書く。この2つが入っているかだけを、チェック項目にする。

事例共有の書き方。何をやったかの前に、なぜうまくいったのかを1行書いてから具体を書く。

どれも新しい仕組みではなく、既存の会議と文書の書き方を少し変えるだけです。新しいツールも予算も要らないので、決めた翌日から始められます。共通の型を組織に置く話はビジネスフレームワークの記事も参考になります。

KOIYALの見解:捨てたものを覚えているのが、人間の仕事になる

抽象化は捨てる作業だと、この記事の最初に書きました。ここに、AIと人の分担のヒントがあります。

AIは、捨てるのが速い。大量の事例から共通点を取り出し、読める言葉に整える工程は、速さで人が追いつけません。この部分に人が時間をかける意味は、年々薄くなります。

一方で、AIは何を捨てたかを覚えていません。正確に言えば、聞けば答えます。ただ、その捨てたものが自社にとってどれだけ重要かは判断できない。判断するには、その現場にいた記憶が要ります。

だから、これから価値が出るのは、きれいにまとめる力ではなく、まとめられた後に、これは落とせないと言える力です。会議で出てきた整った結論に対して、それだと現場のこの部分が抜けている、と指摘できる人。この指摘は、抽象化された言葉と、捨てられた具体の両方を持っていないとできません。

そのためには、上げるだけでも、下げるだけでも足りません。両方を自分で動かせることが前提になります。この記事の練習が往復にこだわっているのは、そこが理由です。

言葉にする力そのものを鍛えたい場合は、言語化の記事と合わせて読んでみてください。抽象度の調整と言語化は、実務ではほぼ同時に必要になります。

次の一歩

今日から始めるなら、練習1つだけで構いません。

今日やった仕事を10個書き出して、自分で3グループに分けて名前をつける。それからAIに同じことをさせて、違いを1行メモする。所要3分です。

これを5日続けると、自分がまとめすぎるタイプなのか、分けすぎるタイプなのかが分かります。分かった時点で、直すべきところが1つに絞れる。抽象化が苦手という漠然とした自覚が、上げるのが苦手という具体に変わったら、それ自体が具体化の練習の成果です

出典・確認日