朝は冷蔵庫の温度を見て記録表に書く。作業の後は清掃をして記録表に書く。従事者の体調と手洗いを確認して記録表に書く。原材料が届いたら受入記録に書く。終業前に製造日報を書く。月末には記録をまとめて責任者が確認し、特記事項を読み返す。食品製造の記録は、製品の安全を確かめた証拠なので省けませんが、書く時間は毎日積み重なります。

この記事は、HACCPに沿った衛生管理で求められる記録を減らさずに、記録を書く時間と、転記する時間と、まとめる時間を減らす型を書きます。記録の項目や頻度そのものの見直しは、衛生管理計画の話なので、この記事では時間の話と分けます。読者は、食料品製造業の製造・品質保証・事務の方と、その会社の経営者です。使う道具は、Microsoft 365のCopilotでも、Google WorkspaceのGeminiでも、ChatGPTでも成り立つ範囲で書きます。会社として契約していて、入力した内容が学習に使われない設定になっていることが前提です。

結論を先に書きます。

  1. 衛生管理計画で必要と決めた記録は、そのまま残します。 HACCPに沿った衛生管理では、衛生管理計画を作り、実施状況を記録して保存し、効果を検証することが営業者に求められています。記録表の項目名は、業界団体が作った手引書のものを使います。項目や頻度を見直すのは衛生管理計画の作成と修正の仕事で、AIを入れることは、その理由になりません
  2. 減らすのは、文章にする時間、転記する時間、まとめる時間の3つです。 特記事項の文章化、製造日報の整理、手順書の下書き、毎月の振り返りの材料づくり。この4つはAIに渡せます。温度の数値、適か否かの判定、異常時に何をするかの決定は、人が書きます
  3. どの記録から始めるかは、文章の量と、間違えたときの影響の2軸で決めます。 記録の名前ではなく、書かれる内容と用途で位置を決めます。文章の量が多く、元の情報と見比べて直せる記録から始めます。温度や中心温度のように、数値そのものが製品の安全を決める記録は、AIに書かせません

HACCPの記録は、何が求められているか

先に、制度で求められていることを確かめておきます。確認日は2026年10月28日です。

厚生労働省のページによると、令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者が、HACCPに沿った衛生管理に取り組むことになっています。同省が2026年5月14日の食品衛生監視部会に出した資料では、衛生管理の基準は食品衛生法施行規則に規定され、営業者等が衛生管理として実施することは次の4つです。

  1. 一般的な衛生管理と、HACCPに沿った衛生管理の基準に基づき、衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底する
  2. 必要に応じて、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱いについて、具体的な方法を定めた手順書を作成する
  3. 衛生管理の実施状況を記録し、保存する
  4. 衛生管理計画と手順書の効果を定期的に検証し、必要に応じて内容を見直す

同じ資料に、施行規則第66条の2の条文が載っています。記録の保存期間は、取り扱う食品が使用され、または消費されるまでの期間を踏まえて、合理的に設定することになっています。

HACCPに沿った衛生管理には2つの形があります。コーデックスのHACCP 7原則に基づいて事業者自らが計画を作る「HACCPに基づく衛生管理」は、主に大規模事業者が対象です。業界団体が作成した手引書を参考に、簡略化した方法で行う「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、主に小規模事業者等が対象で、食品の製造・加工・貯蔵・販売・処理を行う営業のうち、食品等の取扱いに従事する者の数が50人未満の事業場などが当たります。資料には、小規模営業者等は、業界団体が作成し厚生労働省が内容を確認した手引書を参考にして実施してもよい、とあります。

この記事で扱うのは、後者です。手引書は厚生労働省のページに業種ごとに一覧があり、惣菜、納豆、漬物、豆腐、生めん、しょうゆ、パン、菓子、味噌、ハム・ソーセージ・ベーコン、牛乳・乳飲料など、食品製造の多くの業種のものが載っています。自社の業種の手引書が、記録の項目名の元になります。

同省の2026年5月の資料には、事業者へのアンケート結果も載っています。製造・加工業で、HACCPに沿った衛生管理を実施または一部実施していると答えた施設の割合は、令和4年度の調査の回答施設で76.7%、その回答施設を対象にした令和7年度の再調査の回答施設で83.9%でした。導入に向けて準備中と答えた施設は、22.6%から13.8%に減っています。同じ資料は、従業員数が少ない施設のほうが導入率が低い傾向があり、特に4人以下の施設で目立つ、としています。令和7年度の製造・加工業の有効回答は11,209施設中5,137施設で、任意のアンケートです。過去の回答施設への再調査なので、業界全体の変化とは別の数字ですが、自社の立ち位置を見る参考になります。

記録表には、何が書いてあるか

手引書の記録表を、2つの業種で見てみます。

日本惣菜協会の「小規模な惣菜製造工場におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(概要版)」は、一般衛生管理の要求事項を診断書として一覧にし、それぞれに3段階の基準を付けています。A は文書や記録が必要、B は記録することが望ましい、C は該当する場合は対応、です。診断書に記録表の名前が書いてあるので、何を記録するかが分かります。

記録表の名前(惣菜の手引書) 何を記録するか 基準
温湿度測定記録表(冷蔵設備の庫内温度) 冷蔵庫や冷凍庫の庫内温度 A
温湿度測定記録表(食品取扱い場所) 温湿度の管理が必要な場所の温度と湿度 B
作業手順書 清掃・洗浄の方法、廃棄物の保管と廃棄、回収時の対応 A
清掃実施記録表 施設・設備の清掃・洗浄、トイレの清掃と消毒 A / B
校正記録表 温度計やpH計などの計測機器の校正 A
受入記録表 原材料の受入時の原材料名、数量、表面温度など A
検食記録表 検食の保存、製品の発送に関する記録 C
回収記録表 回収した製品や製造場所などの情報 A
食品取扱い者の衛生記録表 体調、外部からの汚染の持ち込み防止、作業着や帽子やマスク B

全国納豆協同組合連合会の「記録等記入例」は、記録表の記入例そのものです。一般衛生管理実施記録表は、月ごとの1枚で、縦に項目、横に日付が並び、床や排水溝の清掃、トイレの清掃、豆洗い機や浸漬タンクや蒸煮釜の洗浄、金属部の欠損確認、発酵室と冷蔵庫の温度、使用水の点検、排水と廃棄物の管理の各行に、適か否かを丸で囲み、温度は数値を書きます。下に担当者サインと確認者サインの欄があり、いちばん下に特記事項の欄があります。特記事項の記入例は、こういう文です。

11/2、洗浄作業中にビス1本、排水溝に落とし、紛失。現在1本不足状態。(製品への混入の怖れなし)入荷予定11/6、入荷後、速やかに修理予定。 11/6、ビス取付完了。

従事者衛生管理記録は、氏名ごとに、体調の良好と不良、外傷の有無、着衣、毛髪等、手洗、家族の欄に印を付け、確認者の欄と特記事項の欄があります。記入例では、発熱と嘔吐の症状がある従事者を、日報等の集計作業に従事させる、と特記事項に書いています。大豆受入記録は、日付、品名、規格、数量、状態の良否、ロット番号、備考、確認者の列です。大豆入出庫記録は、日付、入庫、出庫、在庫、ロット番号、備考、庫内温度、確認者の列で、備考には、1袋破損して廃棄したこと、庫内温度が高いので換気したことが書かれています。

2つの業種の日々の点検表に共通する形が見えます。点検表の本体は、項目、頻度、数値か適否、担当者、確認者で、異常や対応の説明を文章で書く場所は特記事項と備考です。 特記事項と備考に書かれるのは、異常があった日の、何が起きて、どう対処して、いつ完了したかです。作業手順書や製品説明書のように、本文そのものが文章の文書は、点検表とは別にあります。

記録の時間は、どこで消えているか

記録が生まれてから、月末の振り返りまでの流れを追ってみます。

食品工場の記録が生まれてから月次の振り返りまでの流れ。現場で書く、特記事項を文章にする、製造日報に転記する、確認者が確認する、月末にまとめて振り返るの5段で、時間がかかるのは文章にする段と転記する段とまとめる段

現場で書く。 温度を見て数値を書く。清掃をして適に丸を付ける。従事者の体調を確認して印を付ける。原材料が届いて数量とロット番号を書く。この段は、1件ずつは短い時間です。記録表が現場の近くにあれば、作業の流れの中で終わります。

特記事項を文章にする。 異常があった日は、何が起きて、どう対処したかを文章で書きます。現場で起きたことを、作業の合間に、文章にまとめるのは時間がかかります。走り書きのメモを残して、後で清書する人もいます。書く人によって詳しさが変わるのも、この段です。

製造日報に転記する。 製造日報は、その日に何を何ロット作り、どの原材料をどれだけ使い、誰が作業し、機械の状態はどうだったかを書く記録です。受入記録や入出庫記録と同じ数字を、もう一度書くことがあります。紙の記録表からExcelに写すこともあります。

確認者が確認する。 責任者が記録表を見て、確認者の欄にサインします。異常のあった日は特記事項を読み、対処が終わったかを確かめます。記録表が増えるほど、確認する枚数が増えます。

月末にまとめて振り返る。 制度で求められる4つ目の項目、効果の検証です。制度では、定期的な検証と、工程を変えたときなどの見直しが求められています。この記事では、月1回の振り返りを例にします。日々の異常への対応は、月末を待たず、その都度行います。1か月の記録を見返して、否が付いた日、温度が基準を外れた日、特記事項に書かれた異常を拾い出し、計画や手順書を直すかどうかを決めます。記録を1枚ずつめくって拾い出す作業は、1か月分をまとめて行うので、月末に時間が集中します。

この5段のうち、現場で書く段と確認する段は、記録そのものです。時間を減らす対象は、文章にする段、転記する段、まとめる段の3つです。自社でどこに時間がかかっているかは、この5段に分けて、1週間分を測ってみてください。

AIに渡す仕事の4つの型

3つの段で、AIに渡せる仕事を4つの型に分けます。当社は建設業の安全書類と日報の記事で、書き起こし、フォーマット化、照らし合わせ、批評の4つの型を書きました。食品製造の記録では、同じ考え方を、記録の種類に合わせて置き直します。

型1。手順書の下書き。なぜ、誰が、いつ、何を、どこで、どのように

惣菜の手引書は、手順書に、必要に応じて「なぜ、誰が、いつ、何を、どこで、どのように」を記入する、としています。手引書の作業手順書の例は、床の洗浄方法について、対象者、頻度、場所と道具、内容、守らないとどうなるか、異常時の対応、記録、確認方法を1枚に書いたものです。

手順書は、今やっていることを文章にする仕事です。現場の人が口頭で説明できることを、文章の形にします。ここはAIに渡せます。

次の説明をもとに、作業手順書の下書きを作ってください。
項目は、何の手順か、対象者、頻度、場所と使用する道具、内容、守らないとどうなるか、異常時の対応、記録、確認方法の9つです。
説明に無い項目は空欄のままにして、推測で埋めないでください。
薬剤の名前、濃度、温度、時間は、説明にあるものだけを書き、無いものは「確認が必要」と書いてください。

説明:
(ここに、現場の人が話した内容の書き起こしを貼る)

出てきた下書きは、現場の人が読んで直します。薬剤の濃度や温度は、手引書とメーカーの指定を見て人が書きます。手引書は、洗剤や薬剤はメーカーが指定した用途と使用方法を守って使用する、としています。AIの下書きにそれらしい濃度が入っていたら、消して、人が書き直します。承認者が確認して採用を決めるのは、手引書の例にある流れそのままです。

型2。特記事項の文章化。走り書きと音声から、何が起きて、どう対処したか

納豆の記入例にある特記事項の文は、何が起きたか、今どういう状態か、製品への影響はあるか、いつどう対処するか、完了したか、の5つでできています。この5つを、走り書きのメモや、作業の合間に録った音声から文章にする仕事を、AIに渡します。

次のメモを、衛生管理の記録表の特記事項の文にしてください。
含める要素は、日付、何が起きたか、現在の状態、製品への影響の有無、対処の予定と担当、完了の日付の6つです。
メモに無い要素は書かず、「(未記入)」と書いてください。
製品への影響の有無は、メモに書いてあるとおりに書き、メモに無ければ「(未記入)」としてください。
文は短く、1件を3文以内にしてください。

メモ:
(例: ビス1本 排水溝 紛失 製品混入なし 6日入荷 修理)

大事なのは、製品への影響の有無を、AIに判断させないことです。メモに「混入なし」とあればそのまま書き、無ければ空欄にさせます。影響があるかどうかを決めるのは、現場を見た人と責任者です。文章にする仕事と、判断する仕事を分けると、文章化はAIに渡せます。

型3。製造日報の整理。同じ数字を二度書かない

製造日報は、受入記録や入出庫記録と同じ数字を含みます。原材料名、ロット番号、数量。これを二度書いているなら、AIに渡す仕事は、記録表の写真やExcelから、製造日報の項目の順に並べ直すことです。

添付の受入記録と入出庫記録の内容を、製造日報の次の項目の順に並べ直してください。
日付、製品名、製造ロット番号、使用した原材料名、原材料のロット番号、使用量、作業者、使用した機械、備考。
元の記録に無い項目は「元の記録に記載なし」と書いてください。
数量とロット番号は、元の記録にあるものをそのまま写し、計算や推測をしないでください。
使用量と原材料のロット番号は、元の記録に製造ロットとの対応と実際の使用量が明記されている場合だけ書いてください。受入の数量や出庫の数量を使用量とみなさないでください。
元の記録にあって、この項目に当てはまらない内容は、最後に「分類できなかった内容」としてまとめてください。

受入記録の数量と、倉庫から出した数量は、その日の製品に使った量と同じとは限りません。原材料のロットと製造ロットの対応も、並べ直すだけでは決まりません。プロンプトで使用量の扱いを制限しているのはそのためで、対応が元の記録に無ければ、使用量は人が書きます。並べ直した後の製造日報は、元の記録と見比べます。数量とロット番号の写し間違いは、人が見て直します。ここで見比べる手間が転記の手間より大きいなら、この型は自社に合っていません。1週間試して、転記していた時間と、見比べる時間を比べてください。

もう1つ、製造日報の体裁が会社ごとに違うのは、建設業の書類と同じです。項目名を自社のものに直して使ってください。上の項目は、納豆の記入例の列名と、製造日報に一般に入る項目を当社が並べたものです。

型4。毎月の振り返りの材料づくり。否と基準外と特記事項を拾い出す

定期的な検証で、1か月の記録を見返して、計画と手順書を直すかどうかを決める場面です。記録をめくって、否が付いた日、温度が基準を外れた日、特記事項に書かれた異常を拾い出す作業を、AIに渡します。プロンプトの角カッコの部分は、実行する前に、自社の衛生管理計画で決めた基準を人が書き入れます。

添付の1か月分の記録表から、次の3つを一覧にしてください。
1. 適否の欄が「否」になっている項目と日付
2. 温度の欄が基準を外れている項目と日付と数値。基準は、冷蔵庫[自社の基準]、冷凍庫[自社の基準]です。基準が書かれていない項目は判定しないでください
3. 特記事項と備考に書かれた内容と日付
一覧には、記録表の名前と、どの行かを書いてください。
判断はしないでください。拾い出した一覧だけを出してください。

出てきた一覧をもとに、責任者が、同じ異常が繰り返されていないか、手順書を直す必要があるかを決めます。一覧には抜けも重複もあり得るので、否、基準外、特記事項と備考のそれぞれについて、元の記録表と、日付、項目、数値、内容を見比べ、抜けと重複を確かめます。件数が合っていても、抜けと重複が相殺していることはあるので、件数だけで済ませません。見比べの手間が、めくる手間より小さければ、この型は有効です。

温度の基準は、惣菜の手引書が、冷蔵10℃以下、冷凍庫マイナス15℃以下を参考に組織で決める、としています。自社の衛生管理計画で決めた基準を、角カッコに書きます。

どの記録から始めるか

4つの型を全部の記録に一度に適用すると、仕組みを作る側が先に疲れます。どの記録から始めるかを、2つの軸で決めます。

どの記録からAIに渡すかを決める2軸の図。横軸は文章の量、縦軸は間違えたときの影響の大きさ。文章が多く、間違えても記録の見直しで直せる記録から始める

横軸は、文章の量。数値と適否だけの記録は左、特記事項や手順書のように文章が主役の記録は右。縦軸は、間違えたときの影響の大きさ。元の情報と見比べて直せるなら下、製品の安全や回収の判断に直結するなら上。位置は、記録の名前ではなく、そこに書かれる内容と用途で決めます。同じ特記事項でも、製品への影響の判断を含む行は上に置きます。

  • 文章が多く、元の情報と見比べて直せる記録から始めます。手順書の下書きのうち作業の順序や場所を書く部分、特記事項の文章化のうち何が起きたかと対処の予定の部分、衛生教育記録の内容欄。型1と型2が有効です。下書きは人が読んで直しますが、人の確認でも見落としは起こるので、見比べる元の情報を決めておきます
  • 文章が多く、影響が大きい記録は、下書きまでにします。回収記録、製品説明書、アレルゲンに関する記述、手順書の薬剤の濃度や温度、特記事項の製品への影響の有無。AIの下書きを使っても、確定する前に、責任者が元の資料と1項目ずつ見比べます。当社の研修の食料品製造業コースで、表示とアレルゲンの検証演習をこの位置に置いているのは、この理由です
  • 文章が少なく、影響が小さい記録は、転記と項目の整理に使います。清掃実施記録、従事者衛生管理記録、入出庫記録の項目の整理。型3と型4が有効です。在庫のような計算は、AIにさせず、Excelの数式で行います
  • 文章が少なく、影響が大きい記録は、AIに書かせません。温湿度測定記録、校正記録、受入時の表面温度、加熱の中心温度。数値そのものが製品の安全を決めるので、測った人が書き、確認者が見ます。型4で基準外を拾い出すのはよいですが、数値を書く段にAIは入れません

右下から1つ選んで、1か月試します。試す前に、記録を書く時間と、転記する時間と、月末にまとめる時間を、1週間分測っておきます。1か月後に同じ3つを測って、減った時間と、見比べに使った時間を比べます。

記録を減らさずに書く時間を減らす5つの手順

試す順番を、5つの手順にします。

記録を減らさずに書く時間を減らす5つの手順。自社の手引書を開いて記録表の一覧を作る、記録ごとに文章の量と影響を書く、見比べの手順を決める、1つ選んで1か月試す、毎月の振り返りに組み込む

手順1。自社の業種の手引書を開き、記録表の一覧を作る。 厚生労働省のページから自社の業種の手引書を開き、記録表の名前と、何を記録するかと、頻度を1枚に書き出します。惣菜の手引書なら、診断書の文書記録ひながたの列がそのまま使えます。自社の業種の手引書が無ければ、似た業種の手引書を使うよう案内している自治体もあります。保健所に確かめてください。

手順2。記録ごとに、文章の量と、間違えたときの影響を書く。 上の2軸の図を、自社の記録で書きます。この表は、AIに渡す前に、自社で作ります。どの記録が製品の安全に直結するかは、その工場の製品と工程を知っている人にしか決められません。

手順3。見比べの手順を決める。 AIが出した文章や一覧を、誰が、何と見比べるか、何が合っていれば採用するかを、試す前に決めます。特記事項なら、書いた本人が元のメモと見比べて、確認者がもう一度読む。製造日報なら、数量とロット番号を元の記録と見比べる。見比べの手順が無いまま使うと、整った文章が記録に残るだけで、中身を誰も確かめていない状態になります。

手順4。右下の記録を1つ選び、1か月試す。 型1か型2から始めます。プロンプトは上のものを、自社の記録表の項目名に直して使います。試す前に、書く時間、転記する時間、まとめる時間を測っておきます。手順3で決めた見比べの時間も、同じ単位で測ります。

手順5。毎月の振り返りに組み込む。 型4の一覧を、月末の振り返りの材料にします。責任者が一覧を見て、計画や手順書を直すかどうかを決め、直した手順書は型1の下書きから作ります。こうすると、記録、振り返り、手順書の更新が、同じ流れの中で回ります。

毎月の振り返りを、同じ形で続ける

手順5を、月ごとに続ける形にします。

毎月の振り返りを同じ形で続ける5つの流れを円環で示した図。1か月分の記録を集める、AIが否と基準外と特記事項を拾い出す、人が件数を数えて見比べる、責任者が計画と手順書を直すか決める、直した手順書を下書きから作って現場に戻す

1か月分の記録を集める。 紙の記録表は写真に撮るか、スキャンします。Excelの記録は、送る用のコピーを作ります。従事者の氏名が入る記録は、コピーの氏名を削除するか番号に置き換え、特記事項や備考に氏名が残っていないかも見ます。列を非表示にするだけでは、ファイルの中に値が残るので足りません。

AIが拾い出す。 型4のプロンプトで、否、基準外、特記事項と備考の一覧を出します。

人が見比べる。 否、基準外、特記事項と備考のそれぞれについて、一覧と元の記録表を、日付、項目、数値、内容で見比べ、抜けと重複を直します。この見比べを省くと、拾い出しから抜けた異常が振り返りに上がりません。

責任者が決める。 同じ異常が繰り返されていれば、手順書を直すか、設備を直すか、教育をするかを決めます。決めるのは責任者です。AIには、繰り返しの候補を挙げさせるところまでにします。

手順書を直して現場に戻す。 直すと決めた手順書は、型1の下書きから作り、承認者が確認して、現場に戻します。衛生教育記録に、直した内容を教えた日時と参加者を書きます。

この5つを続けると、月末に記録をめくる時間が、一覧を見比べる時間に変わります。記録の枚数は変わりません。記録を見る目が、1枚ずつから、一覧へ変わるだけです。

注意点

温度と適否と中心温度を、AIに書かせないでください。 測った数値を書くのは、測った人です。AIに写真から温度を読み取らせて記録表に書かせる使い方は、読み取りの誤りがそのまま記録になるので、この記事では勧めません。基準外を拾い出す型4は、人が書いた数値を読む使い方で、数値を書く使い方ではありません。

製品への影響の有無と、異常時の対応は、人が決めます。 特記事項の文章化で、AIが「製品への影響なし」と書いてしまうことがあります。メモに無ければ空欄にさせる、と指示しても、埋まることはあります。出てきた文の、影響の有無の部分は、毎回人が確かめます。

従事者の氏名と健康の記録は、渡す前に氏名を消してください。 従事者衛生管理記録には、体調と外傷と家族の欄があります。健康に関する情報です。AIに渡すときは、送る用のコピーで氏名を番号に置き換えるか削除し、特記事項に残る氏名も消します。Excelの列を非表示にするだけでは、値がファイルに残ります。会社として契約した道具で、入力が学習に使われない設定になっていても、健康の情報をどこまで入れるかは、会社が決めます。

記録の保存期間は、自社の手引書と計画で決めます。 施行規則は、取り扱う食品が使用または消費されるまでの期間を踏まえて合理的に設定する、としています。惣菜の手引書は、賞味期限または消費期限に1か月を足した期間などを例にしています。AIで記録の形を変えても、保存の期間と方法は変えません。紙の記録を写真に撮ってAIに渡す場合も、元の紙は決めた期間保存します。

厚生労働省の記録アプリは、一般飲食店事業者向けと書かれています。 同省のページに2026年6月5日付で「HACCP衛生管理記録アプリ」が載りました。アプリのページでは「一般飲食店事業者向けHACCP衛生管理記録アプリ」という名前で、衛生管理計画と実施記録と毎月の振り返りを入力でき、スマートフォンとタブレット専用です。製造業の手引書に対応しているかは、ページに記載がありません。飲食店営業の許可で惣菜を作っている事業者は、使えるかどうかを保健所とアプリのヘルプデスクに確かめてください。

監視指導では、記録そのものを見られます。 厚生労働省の資料によると、自治体はHACCPの導入を、衛生管理計画を作っていること、計画を作ったうえで記録をとっていること、さらに振り返りを行っていること、のいずれかで判断しています。AIで作った一覧は振り返りの材料で、記録の代わりではありません。記録表はこれまでどおり残します。

この記事の制度の記述は、確認日時点のものです。 HACCPの制度と手引書は改訂されます。自社に当てはめるときは、厚生労働省のページと、自社の業種の手引書の最新版と、保健所の案内で確かめてください。

KOIYALの見解

記録の負担を減らす方法として、当社は、記録を減らす方向ではなく、記録を文章にする時間、転記する時間、月末にまとめる時間を減らす方向を取ります。HACCPに沿った衛生管理では、記録は製品の安全を確かめた証拠で、監視指導でも見られます。この3つの時間を減らしても、衛生管理計画で必要と決めた記録表の枚数は変わりません。

もう1つ。AIに渡す仕事を4つの型に分けたのは、AIで全部やる、という話にしないためです。手順書の下書き、特記事項の文章化、製造日報の整理、振り返りの材料づくりは、AIに渡しやすい仕事です。温度の数値、適否の判定、製品への影響の有無、異常時の対応は、人の仕事です。この線を引かずにAIを入れると、整った文章の記録が増えても、製品の安全を誰が確かめたかが分からなくなります。

当社は、インハウス経営(AIを活用し、自社で業務を改善し、自社で仕組みをつくる経営)を自社の中心に置いています。読者の会社が自社でできるようになることを1つ挙げるなら、自社の業種の手引書から記録表の一覧を作り、記録ごとに文章の量と間違えたときの影響を書いて、AIに渡す記録と渡さない記録を自社で決めることです。この表は、工場の製品と工程を知っている人にしか作れません。社内で作って、手引書が改訂されたときに社内で直せれば、道具が変わっても、記録の設計は自社に残ります。

当社の研修の食料品製造業コースは、この4つの型を、食品製造の汎用のサンプル資料で練習する2日間です。演習は、製造日報の整理と衛生点検記録の集約から始まり、商品仕様書の下書きをAIに批評させる演習、新商品の仕様書から表示案を作り、アレルゲンと表示を見比べてAIの見落としを人が見抜く検証演習まで進みます。研修の成果物は、受講者が自分の工場で使うプロンプトと、表示とアレルゲンの検証の型です。記録表の一覧と2軸の表は、研修の前に仮の形で作り、研修の演習で分かったことをもとに、研修の後に自社で見直します。

次の行動

  1. 自社の業種の手引書を厚生労働省のページから開き、記録表の名前と、何を記録するかと、頻度を1枚に書き出す
  2. 記録ごとに、文章の量と、間違えたときの影響を書いて、2軸の図に置く
  3. 右下の記録を1つ選び、この記事の型1か型2のプロンプトを、自社の記録表の項目名に直して1回試す

3つ目まで進んだら、出てきた文章を元のメモと見比べて、推測で埋まった部分を数えてください。推測で埋まった部分は、プロンプトに「無ければ空欄」と足して、もう一度試します。それでも埋まる項目は、人が書く側に戻します。そこまでできたら、研修の食料品製造業コースで、4つの型と、表示とアレルゲンの検証を、食品製造のサンプル資料で練習します。研修の前に、仮の記録表の一覧と2軸の図を持ってきてください。研修の後に、自社で見直します。お問い合わせの本文に、選んだ記録の名前と、1か月の枚数を書いていただければ、初回の打ち合わせはその記録から始めます。

参考