AIで資料を作る時間は減った。その分、できた資料を確かめて直す時間が増えた。作る時間だけを測っていると、確認と修正を含めた効果は分かりません。AIを業務に入れてしばらく経った組織で、こういう状態になっていないでしょうか。

2026年10月19日に、ITmedia ビジネスオンラインが世田谷区のAI活用を報じました。区は約3か月間で14の業務の合計約2,900時間を減らした一方で、担当者は確認と修正の負担が増えていると話しています。この記事は、その報道と区の公開資料から分かることを整理し、確認の負担をどう設計するかを書きます。読者は、AIの利用が社内に広がり始めた会社の、業務の責任者と情報システムの担当者です。

結論を先に書きます。

  1. 作る時間が減っても、確認と修正の時間まで減るとは限りません。 作る人と確認する人が別の業務では、確認の時間は作った文書の数と質で決まります。確認を設計しないまま作る量を増やすと、減らした時間が確認の時間として戻ってきます
  2. 確認は、項目と、担当と、時間の記録の3つで設計します。 報道が紹介している世田谷区の確認の観点は、自社の確認項目の型に使えます。確認にかかった時間は、作る時間と同じ単位で、導入の前と後の両方を記録します
  3. 繰り返す確認の一部は、人から機械に移せます。 同じ判定を繰り返す確認は、当社が別の記事で書いた判定専用モデルの出番です。ただし、間違えたときの損失が大きい確認は人に残します

世田谷区の数字で分かっていること

報道と公開資料から確かめられたことを並べます。確認日は2026年10月27日です。

項目 内容 出どころ
削減した時間 約3か月間で14業務の合計約2,900時間 ITmedia 2026年10月19日
1業務の例 複数の計画を参照して内容を整理する業務で、240分が90分になり、150分が減った。減った分は住民サービスの検討などに充てた ITmedia
主な用途 議事録の作成、文章の要約、表記ゆれの確認、スライドの作成 ITmedia
担当者の発言 確認と修正の負担は増えている。AIの出力の質は、職員の業務の理解と指示の出し方で大きく変わる ITmedia
確認の観点 事実や数値の正確さ、権利関係、AIに入力する情報の公開可否、対外的な表現(記事の説明として紹介) ITmedia
次の対応 業務ごとにAIを使ってよいか、注意点、指示の出し方を整理して職員で共有する。個人の活用から組織の活用へ ITmedia
使い続けるかの判断 職員が業務で使えるか、同じ業務で繰り返し使えるか、担当者が変わっても使えるか、の3つで検証 ITmedia
試行の規模(3月の発表時点の計画) Gensparkの試行はDX推進担当課と公募の計70名。2026年4月から7月に利用と効果測定、9月に評価、2027年度以降の全庁展開を判断 CaseHUB.News 2026年3月26日(Genspark発表)
試行の見込み(同上) 70名で年間約2,000から2,600時間の削減を、過去の対話型AIの利用データから見込む 同上
区の公開資料 職員が内製したAI基盤で、会議メモ、やさしい日本語への変換、Q&Aの自動生成を提供。内製と外部サービスの使い分けを方針に 世田谷区「DXの取組みの見える化について」の資料その2・その5(ページの最終更新2026年8月21日)

ITmediaの記事は、8月27日のAI博覧会 Summer 2026で、区のDX推進担当課の深山翔副係長とGenspark株式会社の中島隆行氏が講演した内容をもとにしています。約2,900時間の内訳と、確認にかかった時間の数字は、報道には書かれていません。削減時間の算定に確認と修正の時間が含まれているかどうかも、報道だけでは分かりません。当社が確認した区の公開資料その2とその5には、削減時間の記載はありませんでした。

報道には、Gensparkの試行で分かったこととして、文書を作る作業だけでなく、その前後にある資料の比較や整理、体裁の調整にも時間を使っていた、という趣旨の記述があります。作る作業の前後に、人の時間がある。この構図は自治体に限らず、AIで文書を作り始めた組織で共通です。確認と修正は、その後ろ側の時間です。

確認の負担は、なぜ増えるか

作る時間が減れば、確認も減りそうに見えます。そうならない場合がある理由を、当社の整理で3つ書きます。

作る人と確認する人が別の業務がある。 報道が紹介する確認の観点を見ると、権利関係や、入力した情報を公開してよいかは、作った本人だけでは判断が終わらないことがあります。別の職員か、決裁する人が見ます。AIが作る時間を減らしても、別の人が見る時間は、作った文書の数と質で決まります。

AIは、自分の誤りに印を付けない。 人が作った文書は、作った人が迷った箇所を知っています。AIが作った文書は、どこが確かでどこが怪しいかが、見た目では分かりません。確認する人は、全文を同じ注意で読むことになります。確認の1件あたりの時間は、人が作った文書より長くなりえます。

作る量を増やすと、確認の件数も増える。 作る時間が減った分で、これまで作らなかった説明資料や作り直しの候補を増やせば、確認の件数はその分増えます。報道では、世田谷区の負担の増えた原因の内訳までは分かりません。自社で見るときは、作る件数が変わったかどうかも一緒に記録します。

文書の確認の深さを4段で示した図。作った本人の読み直し、別の担当者の確認、決裁者の確認、公開前の確認の順に深くなる。AIで作った文書は、1段目が薄くなりやすい

確認の担当を考えるために、当社は確認を4段に分けて見ています。作った本人の読み直し、別の担当者の確認、決裁者の確認、公開前の確認です。人が作る文書では、作った本人が書きながら1段目を済ませています。AIが作る文書で本人の読み直しを省く運用にすると、2段目以降の人が1段目の分まで見ることになり、負担がそちらに移ります。確認を設計する、というのは、薄くなりやすい1段目を、どこで誰が補うかを決めることです。

確認を設計する4つのこと

当社が勧める設計を、4つの手順にします。

確認を設計する4つの手順。業務ごとに確認項目を書く、確認の担当を決める、確認の時間を作る時間と同じ指標で記録する、繰り返す確認の一部を判定モデルに移す

1. 業務ごとに、確認項目を書く。 報道が紹介する世田谷区の観点は、事実や数値の正確さ、権利関係、入力する情報の公開可否、対外的な表現の4つでした。会社向けに置き換えると、事実と数値、引用や画像の権利、顧客情報や社外秘をAIに入力していないか、相手に出す文書としての表現、になります。項目は業務ごとに違うので、業務の責任者が書きます。AIに作らせる前に、この項目を作る人にも渡します。作る人が1段目で確かめられる項目が増えるからです。

2. 確認の担当を決める。 4段のどこを誰が見るかを、業務ごとに決めます。作った本人が項目に沿って自分で確かめる、別の担当者が数値と権利を見る、決裁者は表現と公開の可否だけを見る、という分担です。全員が全文を見る形は、分担を決めた形より確認の時間が長くなります。

3. 確認の時間を、作る時間と同じ指標で記録する。 240分が90分になった、という数字の横に、確認と修正にかかった時間を同じ単位で書きます。導入の前にも、作る時間だけでなく確認と修正の時間があったはずなので、前と後の両方を記録します。世田谷区の報道には確認の時間の数字がなく、削減時間にそれが含まれているかも分かりません。自社で測るときに両方を記録しておけば、確認を減らす対策の効果も同じ指標で見られます。

4. 繰り返す確認の一部を、判定モデルに移す。 表記ゆれがあるか、数値の合計が合っているか、社外秘の語が入っていないか。こうした、答えが真か偽かに収まり、同じ判定を毎回繰り返す確認は、人が全文を読む前に機械で済ませられます。当社は判定専用モデルの記事で、同じ判定を繰り返す量と、間違えたときの損失の2軸で、機械に渡す仕事を選ぶ考え方を書きました。確認にも同じ2軸が使えます。量が多く損失が小さい確認は機械に渡し、損失が大きい確認は人に残します。禁止語の検査や、別のAIによる元の資料との見比べを、人の確認の前に組み込む方法もあります。

作る時間と確認の時間を、同じ指標で測る

手順3を、月ごとに続ける形にします。

作る時間と確認の時間を同じ指標で測る5つの手順を円環で示した図。業務を1つ選ぶ、作る時間を記録する、確認と修正の時間を記録する、導入の前後の合計を比べる、確認項目を直して次の業務へ

業務を1つ選ぶ。 世田谷区が14業務を1つずつ数えたように、業務の単位で見ます。全社の合計から始めると、確認の時間がどこで増えたかが分かりません。

作る時間を記録する。 AIを使う前と後の、作る時間です。世田谷区の240分と90分に当たります。

確認と修正の時間を記録する。 1段目から4段目までの合計です。誰が何分見たか、直すのに何分かかったかを、作る時間と同じ単位で、前と後の両方について書きます。各工程を重ねて数えないように、工程ごとに分けて書きます。

導入の前後の合計を比べる。 作る、確認する、直す、の合計を、同じ件数と同じ品質の条件で比べます。合計の差が小さい業務は、時間以外の変化も見ます。品質が上がったか、対応できる件数が増えたか。時間の差だけで続けるか止めるかを決めず、確認項目か担当の分け方を直す対象として扱います。

確認項目を直して、次の業務へ。 確認で見つかった誤りの型を、確認項目と、AIに渡す指示に戻します。同じ誤りが次の月に減れば、確認の時間も減ります。世田谷区の担当者が言う、指示の出し方を整理して共有する、はこの段です。

この5つを続けると、削減時間の報告が、作る時間だけの数字から、確認と修正を含めた数字に変わります。確認の時間が減れば効果は大きく出ますし、増えていれば次に直すものが分かります。

注意点

約2,900時間を、他の組織の見込みに使わないでください。 14業務の内訳、1業務あたりの人数、確認と修正の時間の扱いは報道に書かれていません。自社で見込みを立てるなら、自社の1業務を測った数字を使います。

確認の負担が増えた、は失敗ではありません。 世田谷区の担当者は、減った時間を住民サービスの検討に充てられたことを前向きに評価したうえで、確認の負担を課題として挙げています。確認が課題として見えるのは、使い方が進んだ組織で起きることです。

確認を機械に移すときは、損失の大きさで決めてください。 表記ゆれの検査は機械でよくても、権利関係や公開の可否は、機械の判定を参考にしつつ人が決めます。2つの機械が同じ誤りをすれば食い違いには出ません。当社の判定モデルの記事に書いた、見落としの率を確かめるまで人が全件を見る、という進め方は、確認でも同じです。

報道の数字と区の公開資料は、別の資料です。 区のDXの公開ページの資料のうち当社が確認したその2とその5には、AI基盤の機能と使い分けの方針が書かれていて、削減時間の記述はありません。約2,900時間と担当者の発言は、8月の講演をもとにしたITmediaの報道によるものです。

確認項目は、誰が作っても更新が要ります。 社内で作っても、社外の支援で作っても、業務が変わったときに更新する担当者と手順が無ければ古くなります。項目を作ることより、直し続ける担当を決めることのほうが先です。

KOIYALの見解

当社が世田谷区の報道で評価したいのは、削減時間の数字そのものより、確認と修正の負担が増えていると担当者が公の場で言ったことです。この一言があるので、約2,900時間を読む人は、確認の時間をどう数えるかを考えられます。

当社は、インハウス経営(AIを活用し、自社で業務を改善し、自社で仕組みをつくる経営)を自社の中心に置いています。読者の会社が自社でできるようになることを1つ挙げるなら、業務ごとの確認項目を自社の言葉で書き、確認と修正の時間を作る時間と同じ単位で記録することです。確認項目は、その業務を知っている人にしか書けません。社内で書いて、社内で直し続ける担当が決まっていれば、AIが変わっても確認の設計は自社に残ります。

作る時間だけを数える組織は、確認の時間に気づくのが遅れます。両方を数える組織は、次に何を直せばよいかが分かります。当社は後者の会社を増やしたいと考えています。

次の行動

  1. AIで作っている文書の業務を1つ選び、作る時間と、確認と修正にかかった時間を、先月の実績で書き出す。AIを使う前の数字が残っていれば、それも並べる
  2. その業務の確認項目を、報道が紹介する世田谷区の4つの観点を型にして、自社の言葉で書く
  3. 確認項目のうち、答えが真か偽かに収まり、毎回繰り返すものに印を付ける。印の付いた項目が、機械に移す候補

3つ書けたら、それを持って相談に来てください。AIコンサルティングでは、確認項目と記録の取り方を一緒に設計し、自社で更新を続けられる担当と手順を作ります。お問い合わせの本文に、業務の名前と、作る時間と確認の時間の2つの数字を書いていただければ、初回の打ち合わせはそこから始めます。

参考